人材派遣・人材紹介事業のリーディングカンパニーである株式会社パソナの社内カンパニー、株式会社パソナ パソナキャリアカンパニー。転職支援サービスなどを手がける同社は、2013年3月、転職希望者向けのウェブサイトをリニューアルした。プラットフォームを Microsoft Azure に移行してクラウド化し(→参考記事)、サイトを支えるCMSには「Movable Type」をベースに、独自のカスタムオブジェクトやサイト内検索などを備えた「PowerCMS」が採用された。今回のリニューアルについて、同社募集企画グループの川建和久さん、芳賀直子さんにお話を伺った。
転職希望者向けのWebサイトを、Windows Azureによってクラウド化し、CMSも刷新
同社のサイトは、転職希望者向けに情報を提供し、転職サポートの申し込みをいただくというビジネスゴールを担っている。「私たちは転職エージェントという業務を行っています。ですから、お客様はサイトを閲覧して、直接、求人企業側に応募するわけではなく、ご登録いただいた後に必ず弊社で対面のカウンセリングを受けていただきます。しかし、従来のサイトでは、いわゆる求人サイトと、私たちのような転職エージェントの違いというものが、明確に打ち出されていませんでした(川建さん)」。
そこで、リニューアルに際しては、求人情報の検索や希望条件とのマッチングといった従来の機能に加え、キャリアアドバイザーと呼ばれる社員を前面に、転職希望者に有益な情報を発信していくようコンセプトを刷新した。もう一つのポイントは、Webサーバーをはじめとするインフラ面の運用コストの削減である。「リニューアル前は、Webサーバーをオンプレミスで所有、管理していましたので、こうしたサーバーの維持費という課題がありました。また、スピード感を持ってビジネスを立ち上げるときに、そのつどWebサーバーを追加で購入するというのは簡単ではありません。クラウド環境であれば、使いたい分だけサーバーを増減することが容易にできますし、セキュリティアップデートなど、保守や管理のアウトソーシングも可能になります。今後のビジネス展開を行うWeb基盤としてサーバーのクラウド化は必須だと考えていました(川建さん)」。
Webサイトの管理基盤としてのCMS刷新も大きなポイントである。「従来のサイトでは、スクラッチで開発したCMSを使っていました。これはオーダーメイドで弊社仕様にカスタマイズされているというメリットがある一方で、新機能を追加するたびに改修を重ねる必要があるため、手間暇がかかり、柔軟に機能拡張をすることができないデメリットがありました。そこで、今回のリニューアルでは、オープンな汎用のCMSを採用しようと考えていました(芳賀さん)」。
このように、デザイン刷新とサーバーの基盤移行、サイト管理の仕組みの刷新という3つの柱でプロジェクトはスタートした。
トラッキングタグの管理機能など、PowerCMSの柔軟な拡張性を遺憾なく発揮
システムの選定は2011年秋頃より本格的に始まった。「まず、サーバーのクラウド移行を最初に検討しました。複数のサービスを検討した結果、機能面で使いやすいことと、セキュリティ面が担保される点、そして日本での導入実績等を勘案してWindows Azureを導入することに決めました。次に、サイト管理基盤のCMSですが、これも複数の開発元などに問い合わせた結果、Windows Azureへの対応を表明してくれたのが決め手となり、シックス・アパートとアルファサードに決め、Movable Type AdvancedとPowerCMSを採用することにしました(川建さん)」。
システム選定が終わり、リニューアルのプロジェクトが開始されたのは2012年の秋頃からだ。開発体制は、サイトデザインを外部のデザイン会社が担当し、Movable Typeのテンプレート作成やカスタマイズなどの実装作業をアルファサードが担当した。リニューアルは2段階に分けて進められ、フェーズ1として、2013年3月に、クラウド環境への移行とTOPページの刷新を行い、2013年9月に、フェーズ2として全ページをリニューアルオープンした。
「リニューアル時に注力したのは、まずは、基幹系システムとの接続です。サイト閲覧者から預かる面談申し込み等の個人情報は、セキュリティ面を考慮し、クラウド環境にあるWebサーバーではなく、連携する基幹系の別のシステムで保持します。アルファサードにご協力をいただき、このデータの受け渡しを行うAPIを設計していただきました。そして、実際のサイト制作については、自分たちの要望に応じて容易に機能を追加してもらえるような設計にしていただきました(川建さん)」。
サイト管理面での特徴的な機能としては、トラッキングタグの管理機能が挙げられる。「これはWebプロモーション担当者として追加をお願いした機能です。GoogleアナリティクスやWeb広告等を利用する際に、ページに特定のタグを埋め込むことが多いのですが、誰が担当しても全ページに漏れなくタグが設置できるように、また、後で誰が設置したタグか分からなくなってしまわないように、管理画面上で管理タグが一覧でき、それぞれどのページに埋め込まれているのかが管理、編集できる機能です(芳賀さん)」。
これは、PowerCMSの「カスタムオブジェクト」という機能を用いて作られたものだ。こうした機能を、非エンジニアであるデザイナーやコーダーでも簡単に追加することができる点がポイントだ。お客様の要望や依頼に対して柔軟に対応可能なPowerCMSの拡張性が至るところで発揮されている。
サーバー管理費の削減や更新担当者の負荷低減、きめ細かなSEO対策の実施に寄与
クラウド環境への移行によってもたらされた効果について聞いてみた。「一番大きいのは、インフラの維持費が大幅に圧縮されたことです。クラウド化により、今まで所有していたWebサーバーの維持費相当のコスト削減効果がありました。また、Movable TypeとPowerCMSは、今まで利用していたCMSと異なり汎用的なシステムなので、更新担当者以外でも容易に記事を更新することが可能です。こうした更新性の高さもポイントです(川建さん)」。
では、PowerCMSの使い勝手という点ではどうだろうか。「管理画面も直感的に操作でき、使い勝手は全く問題ありません。アルファサードには導入前に一度、レクチャーいただき、記事の更新マニュアルも作成していただいたので、日常的な作業で困ることは特にありません。従来のシステムは、継ぎ足し継ぎ足しで改修してきたものなので、記事一つ更新するにも、本文中にタグを記述しなければならないなど、"職人技"が必要でした。リニューアル後は、誰でも簡単に更新できるようになったと思います(芳賀さん)」。
日常的な記事更新だけでなく、例えば、転職に役立つ新たなジャンルの情報をサイト内に追加したいというときにも、ブログを追加する作業を行うだけなので、ほぼ即時に対応が可能だ。こうした、運用担当者の日常的な負荷を低減する仕組みは随所に見られる。「人材事業の業界は検索サイトでの競争も激しく、SEO対策がとても重要です。例えば、SEOのために、記事全体のキーワードの持たせ方を変えたいとか、タイトルの冒頭に【重要】というキーワードを追加したいというようなときに、ブログ記事をCSV形式で一括にエクスポートして、CSVファイル上で編集を行い、それをインポートするということがPowerCMSのおかげで容易にできるようになりました(芳賀さん)」。
これはPowerCMSの「インポート&エクスポート」という機能で、既存のサイトをクラウド環境に移行したリニューアルの第1フェーズのときにも活躍した機能である。「CMS上で全ページの内容を書き換える作業というのがこんなに簡単にできるとは思いませんでした。例えば、ランディングページも目的に応じて個別に設定するものや、ある程度共通に利用するものなど、自在に管理することができるようになりました。重点的に集客したいキーワードがあれば、それを一括で全ページに設定したり、特定のランディングページにのみ適用するという、きめ細かなSEO対策というのを実施、管理していくことが可能になりました(川建さん)」。
目下、リニューアルによる全体的な効果を検証している段階であり、検証結果をもとに修正等を加え、新たなPDCAサイクルを継続していきたいということだ。
マルチデバイス対応をはじめ「転職希望者と企業を繋ぐ」さらなるサービスの展開を
今後の機能拡張などの展開についてコメントをいただいた。「機能面では、マルチデバイス対応ですね。具体的な方法はこれから本格的に検討していきたいと思いますが、どんどん増えていくモバイルユーザーにどう対応していくかが喫緊の課題です。そして、求人検索の改良も大きなテーマです。サイトの一大コンテンツである求人検索の検索性向上と、情報設計を含めた『情報の見つけやすさ』に取り組んでいきたいです。また、ソーシャルメディアとの連携も、さらに深めていきたいですね(芳賀さん)」。
「コンテンツ面では、コンテンツマーケティングですね。有益な情報を定期的に発信していくことで、今すぐに転職を考えていない人とも繋がり、今後サービスを利用していただけるようなきっかけを作っていけるように、情報の量や質、発信の方法などを考えていきたいと思います(芳賀さん)」。
最後に、Movable Type Advanced、PowerCMSに対するコメントや、今後期待することなどをお聞きした。「リニューアルの総括としては、シックス・アパートやアルファサードのご協力もあり、本当に大きなトラブルもなくうまくいったと感謝しています。Movable TypeもPowerCMSも多くのユーザーを抱えている製品だと思いますが、今後、バージョンアップを続けていく中で、管理機能のスピードアップや柔軟な拡張性といった製品の特長が、私たちのよう一般ユーザーにも分かるような形で情報を提供していただけると嬉しく思います(川建さん)」。
転職希望者と企業をつなぐウェブサイトとして、同社は今後もますます有益な情報や新しいサービスを展開してくれるに違いない。
写真左からアルファサード佐藤ちよさん、パソナキャリアカンパニー芳賀直子さん、
川建和久さん、アルファサード野田純生さん
事例データ
- Movable Type Advanced + PowerCMS
- サイトをリニューアルしたのは:2013年3月
- サイトリニューアルの理由:デザインの刷新と、プラットフォームのクラウド環境への移行による維持、管理コストの削減、PowerCMS導入による更新性や拡張性の向上を図った
- どのような手ごたえがありましたか?:どのような手ごたえがありましたか?:クラウド移行による維持、管理コストの圧縮に加え、コンテンツの更新性やサイトの拡張性が高まり、担当者の作業負荷の低減や、きめ細かなSEO対策の実施などの効果が出ている