多忙を極め、数少ない同僚の間ですら情報やノウハウを共有する余裕すらない全国の先生たち。そんな現状を改善するべく、先生をサポートするコミュニティサイト「教えUP!」を立ち上げたのが教科書出版の最大手・東京書籍株式会社だ。Movable Type Advanced(以下MTA)を使ったサイト立ち上げについて、東京書籍株式会社 ICT事業本部事業開発部の秋場武晃さん、数学編集部の提橋正一さんと佐々木俊聡さん、そしてサービス設計・開発を担当した合同会社アライアンス・ポートの山辺真幸さん、常盤拓司さんにお話を伺った。
気軽に「教えのノウハウ」を共有してもらいたい
東京書籍では、現場の先生たちをサポートのため、先生方の執筆した事例集など教育資料や教育情報のデータベースサイト「東書Eネット」を運営してきた。しかし、ICT事業開発部としては、数年前から先生たちが直接投稿でき、先生同士でやり取りができるサイトの立ち上げを模索していた。いいタイミングでそのアイデアを共有できたのが、数学編集部だったという。
「団塊世代の退職で若い先生が増えた一方、少子化による学校の規模縮小により若い先生方の疑問に答えられる先輩や同僚の人数は少なくなっています。そこで、数学編集部では気軽に全国の先生同士で情報のやり取りができ、疑問を解決できるコミュニティサイトを作りたいと思っていたんです」(東京書籍・数学編集部 提橋さん)
「教師というのはなかなか他の先生の授業を見るチャンスがありません。そこで、授業のノウハウを共有できるような仕組みを作りたいと思い始めたのが2~3年前のことです。そのためにはICT(事業本部)と協力していかないとなりませんでした。ちょうど(タイミングが合って)運がよかったんです」(東京書籍・数学編集部 佐々木さん)
「教えUP!」では、東京書籍の教科書(現在は高校数学のみ)のページごとに「工夫」と呼ばれる指導のコツや、アドバイスを求めるための「質問」を投稿することができる。有益な「工夫」に評価をつけたり、質問をクローズしたりなど、Q&Aサイトのような形で授業のノウハウを共有できる上、図解用の画像投稿や、ブラウザーから数式が入力できる数式エディタも備えるなど、数学科ならではの機能も備えている。「複雑過ぎて実現は難しいのでは?」「もっと機能を制限した方がいい」などといった意見もあった。そこで、CMS構築に詳しいアライアンス・ポートに制作を依頼することに。
MTAだからできた、「将来的なユーザー増加対策」ときめ細やかな「ユーザーの権限管理」
制作期間は1月末から半年強。7月のプレオープンに向けて、制作は急ピッチで進められた。ユーザーのリテラシーに関係なく、ストレスフリーで利用してもらえるようなサイトにするべく、UIデザインに時間をかけた。Movable Type(以下MT)を導入することで通常、ウェブサービス開発で手のかかる管理画面の開発を減らせる上、以前に同社で研究開発したSNS「蔵書コレクション」のノウハウを活用することで、デザインに時間をかけつつ、工期を大幅に短くすることができたという。
将来的に全国の先生方に使用してもらうことを考え、CPUやメモリなどのスペックを柔軟に変更できるクラウドサービス・Microsoft Azureと、インストールサーバー数に制限が無いMTAの導入を決めた。「このサイトの投稿は、単なるテキストの"コメント"ではなく、"記事"に近い情報構造を持つ数式や画像も含みます。しかも、投稿するユーザーの所属が同一企業内ではなく、それぞれの学校ということでグループによるユーザー管理が必要です。さらにそ、のユーザー認証は他のシステムとの連携になります。ライセンス的にも機能的にも、こういった複雑な構造に対応できるのがMTAでした」(アライアンス・ポート 常盤さん)
「東京書籍としても初の試みということもあり、制作開始時点ではサイトの規模感がはっきりつかめていなかったんですが、ミニマムでスタートして、ユーザーの増加に合わせてサーバー追加がしやすい。そこがクラウドサービスと相性のいいところですね」(東京書籍・ICT事業本部事 秋場さん)
Microsoft Azure と Data API の組み合わせで、サイトの安定的運用を実現
Microsoft Azureの導入により、安定した形での運用だけではなく、ユーザー数の増加に伴うサーバー負荷の増大と、それに対する供えや対応によってもたらされるシステム構築時の機能要件や、運用時の管理コストの軽減が期待できるという。
一般的なMTを使ったサイトのように事前に出力した静的コンテンツを閲覧させようとすると、このサイトでは書き込みのたびにHTMLが書き出され、サーバーに大きな負荷がかかることになる。Azureを導入するのであれば動的出力の負荷にも耐えられると判断し、Data API を使った自動的な出力で、閲覧者にもストレスなく利用してもらえるサイトを目指した。
「教科書一覧や個別の『工夫』『質問』など、ほぼすべての表示を Data API でまかなっています。Azureと Data API の組み合わせでなければ、このサイトを安定的に運用できる形にするのは難しかったと思います」(常盤さん)
また、投稿された「工夫」や「質問」の一覧で、並べ替えや絞り込みを行っていかにいい工夫を簡単に探してもらえるかにもこだわった。こういった柔軟性を実現するために、独自に Data API の大幅な拡張を行っており、新規に開発したエンドポイントの数はなんと38にも及ぶという。また、MTのデータベースも拡張し、「教えUP!」専用に最適化したデータベースをMTのデータベース内に構築した。これにより、MTに依存しつつ、MTのボトルネックを迂回することに成功した。
「『教えUP!』は(ただのウェブサイトではなく)サービスですから。ある程度滞在して使いこなして、認知してもらわないとユーザーが増えません。その部分については普通のMTを使ったウェブサイトの案件よりもかなり時間を割いて作り込みました」(アライアンス・ポート 山辺さん)
ユーザーが投稿する「工夫」には、数式の入力も可能。
新規ユーザーを開拓できるサイトを目指して
8月末の本格オープンに先駆けて数週間のプレオープン期間に『教えUP!』への投稿を募った際には1,000件ちかい工夫が投稿され、盛り上がりを見せた。もともとITのリテラシーが高く、さらに情報強化も担当する高校数学だけに、「面白い試みだね」と喜ぶユーザーも多いという。
「今後は『教えUP!』をきっかけに、新規の東書Eネットのユーザーになっていただけるようにしたいです。また、東京書籍の教科書を使っていない先生にもアクセスしてもらって、どのように使われているかを見てもらいたいですね」(秋場さん)
また、今後は他教科での展開も視野に入れている。「先生同士の投稿によって成り立つサイト」というコンセプトは保ちつつ、それぞれの教科ならではの意見も取り入れたサイトを目指していく。
写真右から東京書籍株式会社 提橋正一さん、佐々木俊聡さん、秋場武晃さん、
合同会社アライアンス・ポート山辺真幸さん、常盤拓司さん
事例データ
- Movable Type Advanced
- サイトをオープンしたのは:2012年5月
- サイトを移行したのは:2014年8月末
- サイト立ち上げの理由:教科書指導に役立つアイデアや工夫を全国の先生と共有することで、先生同士のつながりを深め、指導力アップを目指すため
- 制作を担当したのは:合同会社アライアンス・ポート
- どのような手ごたえがありましたか?:Movable Type Advanced、Microsoft Azure、Data API を利用することで、全国の学校の先生に利用してもらえ、将来的なユーザー増加にも耐えられる、使い勝手のよいサービスを実現できた