Movable Typeを使っている方だったら絶対にこれは必要だ、というものを自社の事業として開発することもあります。
Movable Typeのユーザーは、もともとWeb関連ツールを使うのが好きだったという人が多い。ビジネスブログの現場でも、こうした元々の愛用者が導入を提案するケースは珍しくない。今回紹介するアイデアマンズ株式会社は、Web関連ツールをはじめとする、様々なプログラムやサービスの開発会社だ。
ウェブサイト構築に携わってきたメンバーもいるアイデアマンズは、自社サイトの構築に、Movable Type愛用者ならではの創意工夫を盛り込んでいる。アイデアマンズ・代表取締役社長の宮永邦彦(みやなが・くにひこ)さんと、取締役兼CBOの門田康弘(もんた・やすひろ)さんにお話を伺った。
更新性がカスタマイズのテーマ
アイデアマンズのMovable Typeカスタマイズには、一つの大きなテーマがあるという。それは、更新性を高めるということだ。ビジネスブログで更新性を高めるためのカスタマイズがなされているが、アイデアマンズのカスタマイズはユニークだ。最も独特なのが、エントリーの記述にWiki(ウィキ)の書式を使えるようにしたことだ。
Wikiとはインターネット上で情報を共有するためのツールで、プログラマーやインターネットに詳しい人がよく使っている。開発者集団であるアイデアマンズが、慣れ親しんだWiki書式を使うのはごくごく当たり前のことに見えるが、実はもうひとつメリットがあるという。
「Wikiで記述するとHTMLよりタグ要素が限定されるので、文章構造が単純になるという効果があって、そのためデザインに統一感が出てくるんですよ。」(門田さん)
Wiki書式を採用することで、更新者による書式の違いを少なくすることができるという。また、新しく入社した人間がWiki書式を学べるという社員教育としてのメリットもあるそうだ。kwikiというPerlのモジュールをMovable Type用のプラグインにした「Kwiki Plugin」を、社内で推奨する書式に合わせてカスタマイズして使っているという。
こうした更新性を高めるというテーマは、さらに突き詰めて言うならば、人間の作業負担を減らして、表現したい内容に注力させることに他ならない。サイト構築にはどうしてもルーチンワーク的な、手間がかかるだけの作業が不可避な場合が出てくる。
それはたとえば、見出しテキストを画像で作る場合だ。前職がWeb制作会社だったという宮永さんは、腕のあるデザイナーが何日間もひたすらテキストの画像化ばかりをさせられているところを見て、気の毒だなとバッチ処理(自動処理)を作ったという。
このバッチ処理は、Movable Typeのキーワード欄に入力した言葉をテンプレートからCSVファイルに書き出し、Fireworksのスクリプトで自動的にテキストを画像化するというもの。画像を所定の場所にアップロードすれば、後は完成という優れものだ。
遊び心あるカスタマイズもある。毎年4月1日のエイプリルフールになると、IT企業が自社サイトでいろいろな「遊び」を行うことがよくあるのだが、アイデアマンズはトップページ文章の語尾がすべて否定形になる遊びをやったという。これを実現したのが、「MTAprilFool」というプラグインだ。
おもしろいのはこのプラグイン、もともとエントリー中にアイコン画像を埋め込みたい場合に、いちいちHTMLタグを書かなくてすむようにするためのものだったという。たとえば、「Q&A」の「Q」の画像を挿入するのに、{Q}と書けば良いという風に入力を省力化できる。これを文章の語尾の置換に応用したという。
こうした例からも、カスタマイズの方向性は、機械に任せるものは任せて、人間はコンテンツ内容の充実に注力しようという意図が貫かれていることが伺える。これは、Movable Typeのようにコンテンツ管理システム(CMS)を使う意義にも通じるかもしれない。
赤枠の部分がFireworksのバッチ処理で作った画像。Webデザイナーなら、こういう見出し画像を何度も作ったことがあるはず。
Movable Typeユーザーとして必要なものを作る
\アイデアマンズは単にサイトを構築にMovable Typeを使っただけでなく、ユーザーとして開発者として、もっとMovable Typeを便利に使えないかと開発したものを、サイトで公開している。
「Movable Typeを使っている方だったら絶対にこれは必要だ、というものを自社の事業として開発することもあります。たとえばエントリーを書いている最中にPCがフリーズして、書きかけの内容が消えてしまったら困るのではと考えて開発したのが、「AreaEditor」という製品です。」(宮永さん)
AreaEditorは、宮永さんが個人で開発したWindows用のソフトウェアで、Internet Explorerのテキスト編集エリアから任意の外部エディタを起動して、文章編集後に保存するとテキスト編集エリアに反映されるというものだ。これを使うことで、間違えてブラウザを閉じたり「戻る」を押して文章を消してしまうというトラブルを避けることができる。
こうしたソフト開発は今では会社の事業になっているが、「受注開発はしない」という姿勢から、自分が欲しいものを作るという姿勢で一貫している。だから、同じように必要としている人たちに無償公開しているのだという。
「こんな技術を持っています、ではなく、こんなものを作ってみました、こんなというを考えていますよ、という自然体のアピールができるんですよ」(門田さん)
最後にアイデアマンズの社名の由来を聞いてみた。
「アイデアを出して、自分たちが楽しんで、日本のものづくりの文化に勇気を与える存在になりたいなということですね。」(宮永さん)
「格好付けた名前を付けても格好付かないじゃないですか。ちょっと崩した方がインパクトも強いですしね。」(門田さん)
ものづくりの達人たちがMovable Typeを楽しみながら作ったサイト、それがアイデアマンズのウェブサイトだと言えるのではないだろうか。
「72時間以上アイデアマンズブログの更新を怠ると、皆にラーメンをおごらなくてはならないというルールができまして(笑)、72時間を経過すると僕の顔がラーメンに変わるというプラグインを冗談半分で考えているんですよ。」(門田さん)
左から取締役兼CTOの寺嶋芳延さん、代表取締役の宮永さん、取締役兼CBOの門田さん。
■事例データ■
・Movable Type
・サイトを公開したのは:2006年1月
・はじめた理由:Movable Typeを使い慣れていたから
・制作を担当したのは:自社開発
・何か手ごたえはありましたか?:まだオープンしたばかりでものすごくアクセスが上ったというような事はないのですが、安定して運用できています。