私たちの目的は、図書とネットを相互で補完しあい、ともに伸ばしてゆくことですから。図書だけ、ネットだけで完結するわけではありません。
旅行ガイド雑誌の代表格「るるぶ」を筆頭に、関連誌だけでも年間400点以上を発刊し、旅行情報の分野では強い知名度を誇る株式会社 JTBパブリッシング。「旅とおでかけ旬情報」サイト「るるぶ.com」では、「るるブログ」「るるぶ 決定版! 温泉&宿 マガジンサイト」「大人の遠足倶楽部」と現在3本のブログを運営している。
旅行情報サイトのブログというと、おすすめ観光地・ツアー案内から旅行予約サイトへ、といったWeb内で完結し、セールスへ結びつくスタイルを想像してしまっていた。しかし、JTBパブリッシングの目的はそうではなかったのだ。
季刊誌の空白をブログがフォロー
るるぶ.com内のブログの中では最も早く始まった「大人の遠足倶楽部」は、季刊誌「大人の遠足magazine」の2005年3月創刊と同時に公開されたブログだ。ここでは、編集部からの観光情報の告知などを公開しており、雑誌のニュースページ的な使い方をしている。掲載が間に合わないイベント情報などをブログで告知することで、読者が「大人の遠足」にまつわる情報を継続的に得られるようになっている。誌面への興味を継続してもらう補強剤として活用しているのだ。第一編集部の副編集長で、「大人の遠足倶楽部」ブログの担当者でもある長崎仁一さんは「誌面への意見や、実際に『遠足』に出かけてみた体験談などをサイトへ寄せてもらっているのですが、その掲載や編集部の反応は、本当は誌面に反映したいのです」と、ブログから紙メディアへの流れを重視している。
アンケートなどで調べた結果、読者の年齢層が高くデジタルメディア活用率がそれほど高くないのも、「最終的には誌面で」という意識につながっているようだ。しかし、団塊世代が本格的に趣味を意識し始める時期が迫っている。「ブログなどWeb上のメディアを活用して読者を組織化するツールに使えるといいですね(長崎さん)」と、約1年半のブログ運用経験から、紙メディアを強化するための見通しを得たという。
『大人の遠足倶楽部』のトップページ。『遠足』の体験談などが掲載されている
編集後記はブログで
2005年7月からスタートした「るるぶ 決定版! 温泉&宿 マガジン」誌が主催する「るるぶ温泉ブログ」も、雑誌を強化するブログ媒体のひとつだ。こちらはリラックスした雰囲気で、編集部員が実際に訪れた温泉や周辺施設の情報、感想などを週1回綴っている。週末にそれぞれプライベートの時間を利用して足を運び、写真もそれぞれ撮影しているのだ。温泉施設の紹介ということでは、本誌の取材記事と重なる部分もあると思われるのだが、本誌編集とブログ執筆の両建てになっても、皆さん特に負担に思うことなく自主取材・執筆のスタイルで1年以上続いているという。「取り上げる場所や原稿チェックの有無は、編集部員それぞれの判断に任せていますし、編集部の日常に近いのでそれほど負担というわけではないです。雑誌の編集後記に近い形ですね」と、宿泊情報編集部の佐々木健介さん。本誌では取り上げにくいウラ話的な内容も盛り込むことができ、本誌と合わせて情報の「厚み」を演出することができる。
『るるぶ温泉ブログ』のトップページ。編集部員おすすめの温泉情報などが掲載されている
メディア間の誘導を行う存在
特定の誌面と結びついた「大人の遠足倶楽部」「るるぶ温泉ブログ」に対して、「るるブログ」は「るるぶ.com」というサイト全体と結びつけられたブログという位置づけだ。サイトの更新情報や特集紹介、刊行物のお知らせや季節のイベント紹介などのエントリーを盛り込んでいる。ここでは、ブログの持つ高いSEO効果を、編集記事や刊行物への認知度アップに活かす使い方が意識されている。具体的には、るるぶ.comで夏に合わせ「浴衣の着かた・選びかた」という特集を公開すると、るるブログで案内し、検索エンジンからの流入を導くといった流れだ。「私たちの目的は、図書とネットを相互で補完しあい、ともに伸ばしてゆくことですから。図書だけ、ネットだけで完結するわけではありません」と、Web事業部の芝田直史さん。ブログシステムの構築にあたり、るるブログ執筆陣の一人でもある。あくまで自社媒体のプロモーションに徹している理由は「旅行予約サイトなどのECサイトと競合するつもりではないからです。こちらが提供するのは特定のツアーではなく、そこへ至るまでの情報、選択肢ですから」と、ブログの活用にしっかりと手綱を付けている印象だ。
雑誌のブランド力を高めるブログ
マーケティングも、セールスも、プロモーションも......とWebメディアを活用していると、懐の広さについあれこれ盛り込んでみたくなる部分はあるだろう。しかし、JTBパブリッシングのように「図書とネットの連携を」としっかりした目的意識を持つことで、ブログの位置づけも明確にすることができる。季節の旅行情報、実際に訪れてみたばかりの温泉......タイムリーな情報を発信できるブログを使うことで、その後ろに広がる雑誌メディアの情報はさらに厚みあるものに見える。誌面のブランド力を高める、それがるるブログ、大人の遠足倶楽部、温泉&宿の効果なのだ。
今回お話を伺った佐々木さん、長崎さん、芝田さん(左から)
「るるブログ」「るるぶ 決定版! 温泉&宿 マガジンサイト」「大人の遠足倶楽部」事例データ
・Movable Type 通常ライセンス(ライセンスパック)
・サイトを公開したのは:大人の遠足倶楽部 2005年3月、るるぶ 決定版! 温泉&宿 マガジンサイト 2005年7月、るるブログ 2005年11月
・はじめた理由:刊行物の認知度アップ、イベント情報告知のため
・制作を担当したのは:社内
・何か手ごたえはありましたか?:SEOから図書の売り上げアップへつながった