「f1.panasonic.com」は、F1トヨタチーム(パナソニック・トヨタ・レーシング)のタイトルスポンサーであるパナソニックのチーム情報サイト。予選・本大会のレポート、ジャーナリストの日記などが即時公開され、多くのF1ファン、トヨタチームファンを集めている。
そのf1.panasonic.comのリニューアルが2006年2月に行われた。このリニューアルのメインはサイト全体のブログ化。そして、構築にはMovable Typeが用いられている。
メルマガからブログへの移行
「パナソニックとしてはスポンサードするからには、トヨタチームのファンやF1ファンがパナソニックファンになってもらいたいという思いが当然あるわけです。F1のファンの方々に喜んでもらえる情報を提供していくことで"パナソニックっていいスポンサーじゃん"と思ってもらえるたらいいなと。そのためにはウェブというメディアを使えば、新聞広告や雑誌広告よりもずっと深いコミュニケーションが図れるんじゃないかというのが、2001年から始めたパナソニックのF1のサイトなんです」
こう語るのはパナソニックの宣伝部門のウェブ担当である次田寿生さん。そしてサイトオープン2年目から始めたのはメールマガジン。速報性の高いコンテンツが多い f1.panasonic.com にアクセスしてもらうためには、ユーザーに更新状況を伝える必要があった。f1.panasonic.com は、サイトとメルマガという2本柱の体制で運営されてきた。そこにブログ導入の話が持ち上がった。ブログ導入のポイントは2つ。
・現地からコンテンツを即時アップするためのCMSとして
・ユーザーが定期的に見に来てくれる仕組み作りのため
この2つはブログを使うことでひとつにできるのではないか。そう提案したのは、ビジネス・アーキテクツの工藤靖久さん。しかし、ウェブ運営担当リーダーの次田さんには懐疑的な部分があったという。メルマガとサイトの2本柱での展開でうまくいっていた。単にブログに置き換えることのメリットはあるのか。
工藤さんは上の2つ以外にもブログを使うことのメリットがあると考えていた。
「すでに4000人からのファンがいながら、ユーザーの声を窓口として受け付けるところがなかったんですよ。読者プレゼントが当たったファンの方から御礼のメールが来たりもするんですけど、それは一般に公開するわけにもいかない。そこで、ファンの方と一緒に作り上げていくようなサイトにできないかという思いもあって、ブログ化を提案したんです」
この"コミュニティ"という方向性は当初から次田さんが考えていた「ウェブを使うことで、ファンとのコミュニケーションを深める」という目的とも合致していた。
オープンにすることで信頼を得る
f1.panasonic.com では、ただ単にブログとしてコメント欄とトラックバックをオープンにするだけでなく、さまざまなコミュニケーションのための工夫が行われている。そのなかのひとつに、今年鈴鹿サーキットで行われるF1日本グランプリ観戦チケットのプレゼント企画がある。
「ユーザーの方の"熱い思い"を応援メッセージとして送ってもらい、最も熱かった方6人を編集部で選考して鈴鹿の観戦チケットをプレゼントするという企画なんです。通常プレゼントの選考ってどういう基準で審査されているかっていうのはわからないまま、結果だけ発表されるものじゃないですか。でもこれはメッセージをすべてオープンにして誰でも読める形で行ってます。そうすると、選ぶ方もそれなりの理由を用意しなくてはならないですよね」(工藤さん)
実際、このプレゼント企画の反響は大きく、1ヶ月間の応募期間で500通近くの熱いメッセージが寄せられた。 ただ読者の声を集めただけでなく、これ自体が読み物になっている。CGM(消費者が作るメディア)的な試みだ。また、これはブログのコメント機能を使っているが、見せ掛けとしては独立したページに見えるようにカスタマイズされたもの。ただブログであればいいというのではなく、ブログの可能性を試す。それがこのサイトの特徴でもある。
カスタマイズが自由にできるメリット
上の例のように、f1.panasonic.com は単にブログを使ってページが作られているわけではなく、カスタマイズを積みかさね、ブログを意識させないサイト作りがなされている。
「Movable Typeでブログをやろうという意識は低かったです。むしろカスタマイズが自由にできる管理ツールとして使ってるんですよ」(工藤さん)
当然これだけのサイトを作るには、Movable Typeの標準機能だけでは難しいだろう。そのあたりは、実際にブログの構築を行ったエンジニアの坂井隆二さんにお話を伺った。
「このサイトの場合は、複数のコンテンツを連携させる必要がありました。そのため、複数のブログをひとつのサイトに見せる工夫が、いろいろ見えないところで行われています。具体的には外部のプラグインを導入したり、それもなければ独自のプラグインを開発するなどして補っています。Movable Type自体のソースも多少いじってますし。このサイトはこれまで関わってきた仕事の集大成ですね」
「Race Reports」のエントリー。「Diary」「Results」「Gallery」の各ブログと連携している
トップページを見てもらえればわかるように、「Race Reports」「Editor's Talk」「Features」といった複数のコンテンツが並んでいる。これらはそれぞれ単独のブログとなっており、しかも「Race Reports」のエントリーのなかに同じレースの「Diary」「Results」「Gallery」がぶら下がるように作られている。読み手のことを考えれば、当然そうする必要はあるのだが、これを実現するには大変な手間がかかるのだ。
また、読み手だけでなく、更新する人間はウェブに詳しい人ばかりとは限らないので、更新の作業は簡単なものにしなくてはならない。中身は複雑でも、投稿画面のインターフェースはシンプルでなくてはいけない。
「以前のようにHTMLを使って更新するにはある程度の専門知識が必要になるし、CGIなどでCMSを作ってしまうと今度は拡張性に問題がある。あとから機能を加えたりすると必ず不具合が出てくる。そういう意味では、Movable Typeをベースにして、プラグインなどで拡張していくというのが一番やりやすいということがわかりましたね」(工藤さん)
ブログをベースにしたサイトの構築を考えた場合、Movable Typeの拡張性の高さやカスタマイズ機能は大きなアドバンテージだ。今回の事例は、これらの要素をフルに活用したものとして興味深い。
今回お話を伺った坂井さん、次田さん、工藤さん(左から)
f1.panasonic.com の事例データ
・Movable Type 通常ライセンス(ダウンロードライセンス)
・サイトを公開したのは:2006年2月
・はじめた理由:簡易なCMSとして。またユーザーとのコミュニケーションを見据えて。
・制作を担当したのは:ビジネス・アーキテクツ
・何か手ごたえはありましたか?:反響が目に見えて増えた。