クルマがどんどんコモディティ化しつつあると言われる昨今の流れに逆らって、クルマ自身の魅力に真正面から立ち向かっているのがスカイラインなんです。この戦場で戦っていくためにも、スカイラインに情熱をかけているプロジェクトのスタッフたちの言葉を伝えていくことができればと思っています。
2006年11月20日、日産自動車は5年ぶりのスカイラインのモデルチェンジにあわせて、「スカイラインブログ」を開設した。
日産自動車はビジネスブログの世界ではパイオニア的な存在だ。2004年9月にスタートした「ティーダブログ」は、黎明期のビジネスブログの成功例として、その後に続く多くのビジネスブログに影響を与えている。また、日産自動車ではその後も「キューブ」や「エクストレイル」といった車種でもブログを展開している。すでに車種ごとに公式ブログを作るのが当たり前ともいえる状況で、ブログがマーケティングのひとつのチャンネルとなっている。
ファンの熱をコミュニケーションに反映させるツールとしてブログを使う
成功例であるティーダブログの特長とは、担当者が自分の目線でクルマの魅力を、話し言葉に近い感覚で語る(記事にする)という部分にあった。必ず冒頭に「日産自動車の山本です。」という一文が添えられていたのも、"企業"よりも"個人"であることをアピールするためだ。スカイラインブログでも記事の冒頭は「日産自動車の岡本です。」で始まるが、両者のアピールしたい内容は大きく異なるようだ。
「ティーダブログの場合は、山本さんの個性が前面に出たことが成功した原因だったと思います。でもスカイラインブログの場合は、僕でなくともいいんですよ。個人ではなく、スカイラインというプロジェクトに関わっている多くの人の声を、ブログで外に出していきたいというのがコンセプトです」(マーケティングマネージャー 岡本智さん)
スカイラインブログでは、記事は4つのカテゴリーに分けられている。"インタビュー"、"インフォメーション"、"プロダクト"、"レポート"の4つ。その中でもコンテンツの中心といえるのが"インタビュー"。エクステリアデザイナーや商品開発担当者など、スカイラインというプロジェクトに関わっているスタッフたちの思想やスカイラインに賭けた思いをここで読むことができる。
ちなみに、スカイラインのマーケティング担当の岡本さん自身も、この新しいスカイラインの商品企画を担当した"プロジェクト・メンバー"の1人だ。現場を知る岡本さんだからこそ、誰がどのように貢献しているのかをよく知っており、社内の取材で作るブログを担当するのに相応しいポジションともいえる。
ブロガー向け発表会
日産自動車はスカイラインの発表で、ちょっと変わった催しも試みている。それはブロガー向けの発表会だ。
「スカイラインは、いろいろと語ってもらいたいクルマなんです。どうせ語ってもらうのなら、ちゃんと語ってもらいたいという思いから、こちらから情報を出して、より正確に語ってもらおうというのがブロガー向け発表会を行った理由です」(販売促進部 インターネットチーム 工藤然さん)
通常であれば新車の発表は、経済記者向け、自動車ジャーナリスト・専門誌向け、一般メディア向けと分けて行われるという。しかし、スカイラインの場合はこれに加えて"ブロガー向け"の発表の場が用意されたのだ。ここに招待されたブロガーは、一般公募で決まったわけではない。
「集まっていただいたのは、こちらから招待した方々です。スタッフが手分けをしてスカイラインについてエントリーを書いているブログを検索し、メール経由で連絡を取って、発表会への参加の意思をお尋ねしました。最終的に70人弱の方にきていただきました」(工藤さん)
発表会は他のメディア向けに行われた内容にマーケティング・ダイレクターからのプレゼンテーションを追加し、開発担当者などから直接話を聞いたりする機会などが与えられた。日産自動車ではブログを重要なメディアとして認識しているのだ。
ブロガー向け発表会の模様は、スカイラインブログにもアップされている
ブログパーツを用いたCGM戦略
この発表会以外にも、ブロガー向けの仕掛けを積極的に行っているのが、スカイラインのインターネット戦略の特長だ。
「スカイラインというクルマは今年の4月で50周年という長い歴史を持つ、世界でも稀有なクルマなんです。なので、僕たちがあれこれいう以前に、このクルマについて語ってくれるファンが大勢いるんですね。そういうファンの熱が反映されるコミュニケーションをネットを使って行っていければいいなということもあって、スカイラインのスペシャルコンテンツも含めて、企画を行っています」(工藤さん)
なかでも興味深いのは、スカイラインを評価してコメントをつけることができる"スカイライン・マークシート"という企画だ。
「ユーザーに評価してもらうというようなことをやったら、炎上するんじゃないかという心配はあったんですよ。でも、覚悟を決めてやりました。自分たちも言いたいことを言い、向こうにも言いたいことを言ってもらった方が、コミュニケーションとしていいんじゃないかなと思ったんです」(岡本さん)
これは誰でも参加可能な企画であり、他人がつけたコメントを読むこともできる。しかも、この投票結果は、ブログパーツとして個人ブログのサイドバーに設置することができるようになっている。参加者を巻き込むCGM的な仕掛けといえる。2007年2月半ばの段階で、すでに8万2000件のコメントが寄せられている。
熱を伝える工夫
このスカイラインブログの企画をサポートするのは、ティーダブログなど、日産自動車のブログをサポートしてきた株式会社カレンのプロデューサー 日浅一之さん。
「スカイラインというクルマの魅力を伝えるのは、気軽さや気楽さではなくて"熱"なんですよね。だからブログのエントリーも、その熱が伝わるような書き方にこだわりました」
これをフォローするのが、インターネット部門でスカイラインに関わってきた工藤さんの言葉だ。スカイラインに関わるということは、単にクルマを売るということではないのだということがよく伝わってくる。
「クルマがどんどんコモディティ化しつつあると言われる昨今の流れに逆らって、クルマ自身の魅力に真正面から立ち向かっているのがスカイラインなんです。この戦場で戦っていくためにも、スカイラインに情熱をかけているプロジェクトのスタッフたちの言葉を伝えていくことができればと思っています」(工藤さん)
お話を伺った日浅さん、岡本さん、工藤さん(左から)
事例データ
・Movable Type(ライセンスパック)
・サイトを公開したのは:2006年11月20日
・はじめた理由:スカイラインのマーケティングのため
・制作を担当したのは:株式会社カレン
・何か手ごたえはありましたか?:ブログパーツの設置やトラックバックという形で、スカイラインファンから多くの反応を頂いた