東京都郊外に位置する和光学園は、幼稚園から大学・大学院に至るまで、一貫教育を行っている私立の総合学園だ。個性を尊重し、自由な校風で知られている。
同学園の中学、高等学校公式サイトは、リニューアルにあたってMovable Typeを導入し、作業の効率化と質の向上を図っている。さらに、学生のウェブコミュニケーション教育にもブログを活用しているという。
更新作業の分散化のために導入
和光学園は、幼稚園から大学院まで、全7校からなる総合学園だ。各学校にはそれぞれ情報を発信するためのウェブサイトがあり、さらにそれをまとめる和光学園全体の、ポータルサイトが用意されている。高校以下のサイトはすべて、中高校舎内にあるサーバー室で一括管理されている。そのうち、2007年5月に中学サイトと高校サイトを、Movable Typeを使って完全リニューアルしたという。
導入からウェブサイトの制作、サーバーの管理までを一手に引き受けているのが、同高校の教員・小池則行さんだ。
「もともと、学校ごとにウェブサイトを立ち上げていたので、ドメインもバラバラだったんです。学園として統一した方がいいという話になったんですが、すでに高校のサーバー室でウェブサーバーを立ち上げていたので、大学以外のすべてのサイトを管理することになりました」
そして、2004年に学園全体をまとめるポータルサイトが立ち上がったが、当時はオーサリングウェアを使って、制作更新を行っていた。
「日々の教育活動の報告記事を発信することにしたんですが、それまで使っていたオーサリングウェアだと、コンピュータに詳しい先生しか使えません。しかし、学校生活のことを記事として書くなら、子どもに近い学級担任の先生などに書いてもらった方が、リアリティがある。誰でも更新できるシステムを考えて、ブログを使うことにしました」
小池さんは、すでに自分個人のブログを立ち上げており、ブログの良さについては体験済みだったそうだ。
「ブログを使って授業のための備忘録を書いていたんです。思いついたらすぐ書けて、検索性にも優れているブログは、学校の情報発信ツールとしても使えると思ったんですね」
ライティングを担当する先生の中には、ほとんどブログを触ったことのなかった人もいたが、実際に更新が始まると、かなりの頻度でエントリーが投稿されていった。
マルチブログで問題を解決
ブログが導入されて頻繁にサイトが更新されるようになったということは、ポータルサイトや学校サイトのトップページの更新作業が頻繁になるということでもある。
トップページは小池さんがすべて手動で更新していたため、タイムラグが発生したり、直し漏れが起こることもあった。
また、更新の手間以外にも問題があった。必要な情報を盛り込んでいくうちに、サイトの階層が深くなってわかりづらくなっていたのだ。
しかし、その解決方法もブログにあったそうだ。
「マルチブログを使えば、それらの問題が解消されることがわかったんです」
外部に向けた学校説明会の告知や保護者会のお知らせ、同窓会など、目的別にブログを作り、トップのページに自動で新着情報を表示するようにすれば、手動での更新作業は不要になる。
ただ、そのためには、以前のウェブサイトをゼロから作り直す必要があった。全体の情報を見直し、整理し直してから、ブログに落とし込む。
その構成作業には、かなり気を遣い、時間もかかったそうだ。また、学校らしさを表現できるようなデザイン作りにも注力した。
そのかいもあって、導入後の評判は上々とのこと。
「まず、前よりナビゲーションがずっとよくなり、見やすくなったことが大きいですね。また、更新作業の負担も格段に減りました」
ブログとカテゴリーを選んでエントリーを書くだけで、自動的に各コーナーに整理されて掲載でき、更新情報もトップに載る。小池さんが手を煩わせなければならない部分が減ったお陰で、「瑣末なことを気にする必要がなくなったので、その分新しいことを取り入れる余裕もできました」と言う。
その効果は、数字にも現れている。公開を始めた2007年の5月以降、アクセス数がぐんと伸びているそうだ。
「今まで以上にサイトの注目度は上がったと思いますね。ほぼ毎日更新していると、みなさんリピーターになってくれるみたいで、うちの生徒も結構見ているようです」
和光高等学校のトップページ。行事の様子などはすぐ公開できるため、新鮮な情報を伝えることができる
ウェブ標準への対応
和光学園のサーバーが設置されているのは、学園の一教室内。そのすぐ傍らには、小池さんの机があり、手の届く範囲でサーバーを管理している。
「実際にサーバーが近くにあると、心理的に安心感があるんですよね。何かあっても、最悪リブートすればどうにかなるなと(笑)。また、僕自身サーバーを触りながら、学べることも多い。それが、生徒に教えるときにも役立っています。自分で管理するのは大変ですが、今の僕の立場だとメリットの方が大きいですね」
Movable Typeのインストールやデータベースの構築も、すべて小池さんが提案し、行っている。
Movable Typeを選んだ理由を聞くと、自由度や普及率のほかに「ウェブ標準への対応」という答えが返ってきた。
たしかに、教育機関の発信するサイトであれば、正しい記述が求められるのは必然だ。
「Movable Typeであれば、発信者が意識しなくてもウェブ標準に基づいたページができますから」
ブログを使ったウェブコミュニケーション教育
小池さんは、高校で情報の授業を教えている。昨年4月からは、ブログも授業に取り入れ始めた。今年で2年目の試みだ。
「選択授業で『ウェブコミュニケーション』という講座を設けていますが、そこでブログを取り入れ始めました。自分のブログを立ち上げたときに、これは授業で使えるなとピンときたんですよ。ブログならHTMLがわからなくても、"自分をウェブ上でどう表現するのか?"などを学べますよね。実は昨年、学校サイトリニューアルに先立って、試験的に『和光中ブログ』『和光高校ブログ』をMovable Typeで立ち上げたんです。あわせて、授業でもブログが使える、という感触を持ったので、生徒用のブログも同時に始めたんです」
授業は、各生徒にブログを立ち上げさせるところからスタートする。しかし、授業の本来の目的は、ブログの設定ではなく、その後のエントリーを使ったコミュニケーション方法にある。
「生徒に課題を出して、エントリーを使って回答をしてもらいます。たとえば、『ブログとは何か?』という課題を出すと、生徒はそれについて調べてきて、エントリーに書き込むんですが、ウィキペディアをそのままコピー&ペーストしてくる生徒もいるんですよ。でもそれは想定の範囲内で、そこからネットにおける著作権の適切な引用の仕方などについて、話をするんです。ネット上のソースを利用しつつ、著作権を意識しながら自分の意見を表現する方法を、実践的に教えることができるわけです」
これからの情報教育は、コミュニケーションスキルを教えることこそが重要だと小池さんは言う。
「プログラムなどを教える授業もありますが、そういう専門的な技術とは別に、ウェブを利用したコミュニケーションについて学ぶことが重要になっています。バーチャルな関係ならではの問題や、快適なコミュニケーションとは何か、ということにフォーカスすることが必要だと思っています」
募集対策だけではなく、保護者に安心を提供できる
少子化が進む中、各学校は生徒獲得に力を入れ始めているが、和光学園も例外ではない。
「うちは私立の学校の中でもユニークな存在だと思うんですが、広く知られていなかったという面もあるんです。今まで積極的に募集対策の活動をやっていなかったので、最近では広報活動を積極的に始めるようになったんです」
入試情報のページ。RSSにも対応しており、説明会情報など随時更新している
ウェブサイトは、その中でも費用対効果が高いという。
「外注に出さなければ費用も低く抑えられるし、即時性もある。特にブログは学校の"今"を伝えるツールとして、すごくいいと思うんです。学校では日々いろいろなことが起きるので、それを逐次上げていくことで、この学校ではどんなことが行われているのか、どんな校風なのかを伝えることができますから」
それは、募集対策だけではなく、在校生の保護者に安心を提供する手段にもなっている。
「学校の様子を知る方法は、今まで子どもに聞いたり、保護者会で報告を受けるだけだったのが、いつでもウェブから見られるようになった。やはり親としては、自分の子どもが学校で何をやっているのか知りたいものですよね。安心感を持ってもらい、学校を信頼してもらうことができるのは大きいですね」
多忙な先生たちでも、ブログなら頻繁に生徒の様子をアップできる。ダイレクトに学校の様子を伝えるツールとして、ブログはマッチしているのだろう。
ブログの効果は関係者の間でも認知されつつあり、さらに学園サイトでの利用を広げていこうとする動きもあるという。今後、ブログがさらに学校サイトや教育の現場に広まっていくことが予想されるが、その先鞭をつける存在として、和光学園の例は参考になるだろう。
お話をお伺いした小池さん
事例データ
・Movable Type基本ライセンスパック
・ビジネスブログをオープンさせたのは:2007年5月
・はじめた理由:更新作業の省力化、サイト構造の明確化
・制作を担当したのは:内部
・何か手ごたえはありましたか?:更新作業が複数人に分散され、省力化された。更新頻度が上がり、サイトのアクセス数が増えた