ニュースメディアとCGM手法の融合をTypePadで実現
IT関連のニュースを扱う総合情報ポータルのITmediaは、2005年6月に"オルタナティブ・ブログ"というブログメディアを開設した。
オルタナティブ・ブログは、一般の読者にブログサービスを提供し、個々に情報発信を行ってもらうという趣旨のもの。2007年9月現在、140を超えるブログが存在している。そして、これらのサービスにはLekumo ブログOEM(旧TypePad ASP)が利用されている。
■「ニュース」にセカンドオピニオンを
ニュースメディアであるITmediaが、このような一般向けのブログサービスを無料で行うことに何の価値があるのか。オルタナティブ・ブログに立ち上げ時から関わっている、ITmedia エンタープライズの発行人である浅井英二さんに話を伺った。
「医者の世界ではセカンドオピニオンというものが普及しましたけど、ニュースメディアでも同じ事ができないかなあと思ったのがオルタナティブ・ブログの始まりなんです。紙のメディアであれば不可能ですが、ネットのメディアならこれができるかもしれないと」
医者のセカンドオピニオンとは、診断内容について、主治医以外の意志の診断を仰ぐという考え方のこと。医者の間違い、勘違いによる誤診を防止するための手段として、ここ数年で浸透しつつある。これをニュースメディア応用するというのはどういう事か。
「あるニュースに関して、客観的なことを伝えるのがニュースサイトの使命です。それに比べると、個人のブログはニュースサイトが書けないような大胆な主張を展開することもできる。読者はその両方を読んで、自分の意見を考えてもらえばいい。ほかにも、ひとつのニュースを私たちが取り上げても、そのニュースの後日談まではフォローできない場合があります。主にコストの問題です。そこを個人のブログならカバーしてくれるかもしれないですよね」
大手のニュースメディアだけではフォローできない部分を、個人のブログでカバーしてもらおうというのがオルタナティブ・ブログの趣旨。つまりはニュースにCGM(コンシューマー生成メディア)の手法を取り入れたと考えるとわかりやすい。
今ではニュース記事とブログの記事の融合がうまくいっているオルタナティブ・ブログだが、いきなり手当たり次第にブロガーを募集したわけではない。
「はじめは記事のライティングをお願いしているライターや、日頃から付き合いのある方々など、第一線で活躍している方々にお願いして、ブログを書いてもらったんです」
立ち上げ時のメンバーは各界のオピニオンリーダーと呼ばれる人間たちで固められたという。有名な『栗原潔のテクノロジー時評Ver2』の栗原潔さんも、立ち上げ当初に声をかけられたメンバーの1人だという。
開設当時からのメンバー 栗原さんのブログ。根強い人気を誇る
「第一段階として、実績のある著名な方々にお願いしてうまくいったので、第二段階として一般に募集をかけ、サイトで呼びかけることにしたんです」
そのため現在では、一般のユーザーが自薦で参加することもできる。しかし、何を書いてもよい一般のブログサービスとは違い、参加するにはそれなりの選別のためのテストが課せられる。
「まずはテスト的にエントリーを書いてもらいます。その上で面接も行います。さらに、実名、顔出しというルールを設けています」
というのは、オルタナティブ・ブログの運営を担当する木田佳克さん。このようなルールは、ユーザーに書く内容について責任を持ってもらうためのもの。
「例えば、投稿内容に関連性があればアフィリエイト制限をしないなど、大きな縛りは設けておりません。テーマについては、開設時に大枠を決めていただくものの、基本的に自由に書いていただきます」(木田さん)
■書く側のインセンティブ
さて、オルタナティブ・ブログでブログを書くことは、一般ユーザーにとってどのようなメリットを持つのか。
「何もないところから始めるより、初めから注目が集まりやすい場所でやったほうが読んでもらえますよね。ITmediaのトップページにも新着エントリーへのリンクが張られるので、アクセスの機会は普通のブログサービスよりも断然高いはずです」(浅井さん)
なるほど。互いにメリットのある形を築いているということだ。
「会社の中で目立たなかった人が、ブログで才能を発揮するケースもあるようです。オルタナティブ・ブログでブログをはじめて、社内での評価が上がったという人もいるようです」(浅井さん)
■メディアだからこその責任
一方、メディアがこのようなサービスを行うリスクとして、一般のユーザーの書いた内容に対し、メディアへ苦情が寄せられるということが考えられる。
「ブロガーの方々が書いたものに対して、我々は運営元としての責任はあると考えています。これまでもオルタナティブ・ブログで書かれたものに対して批判を受けたことはあります。その場合、なぜ批判されたのか、双方に不注意がなかったか、その辺をじっくり話し合って、ミスがあったのであれば、今後同じミスを犯さないようにするためにはどうするかを話し合いました。それを読んでいる方々にも伝えていき、解決を図ることが大事だと思っています」(浅井さん)
トラブルに当たっても、透明性を保ち、ユーザーと真正面から向き合おうというのがITmediaのスタンス。このユーザーとの距離感こそが、ネットと紙のメディアの一番の違い。言いっぱなしではなく、双方向で対話をしようという姿勢が重要なようだ。
お話を伺った浅井さん、木田さん(左から)
事例データ
・Lekumo ブログOEM
・サイトを公開したのは:2005年6月
・始めた理由:ユーザー向けにブログサービスを始めるため
・制作を担当したのは:シックス・アパート。「Lekumo ブログOEMに元からある機能に加え、ポータル管理ができるよう一部の機能を拡張しています」
・何か手応えはありましたか?:ニュースに対するセカンドオピニオンがユーザーから発せられるようになった