僕らはMovable Typeをブログとは認識してないんですね。バイラル力があるブログというよりも、優れたCMSツールとして捉えている面が大きいです。僕らのようなベンチャーにとって、優れたCMSツールとは、SEOなどの効果と同時に、制作側のユーザビリティが優れていること、デザイナーがデザインに集中できること、つまり、いかに内部工数を省くかが重要なんです。
サイト構築の効率化とメディアとしての訴求力アップを実現
「cinemacafe.net」(シネマカフェ)は、インターネット黎明期の1997年に創刊された映画メディアだ。メルマガからスタートしたシネマカフェはインターネットの普及と共に成長を続け、今では映画を中心とした総合映画ポータルサイト的なメディアへと姿を変えた。現在の姿にリニューアルしたのは2006年7月。そこでは、Movable Typeも大きな役割を果たしている。
■いち早くCMSとしての可能性を感じ、カスタマイズして活用
運営会社である株式会社カフェグルーヴは、シネマカフェなどのメディア事業を中心に、ネットでの映画やブランドプロモーション、企業サイトのプロデュースなどを行いながら、規模を拡大してきたベンチャー企業だ。日本国内で初の映画公式サイトを作ったり、いち早く公式ブログを立ち上げたりと、常にネットのトレンドを先取りして、業績を伸ばしてきた。
今回お話を伺ったのは、同社取締役兼、シネマカフェプロデューサーの岡島将人さん。自らプログラミングを行ってシステム開発に携わるなど、技術にも詳しい。そんな岡島さんをはじめとしたカフェグルーヴのスタッフと、Movable Typeとの出会いは2004年ごろまで遡る。
「ITとエンターテイメントが好きなスタッフがカフェグルーヴに集まったというのもあるんですけど、そのころはMovable Typeは面白そうとスタッフ間で盛り上がったんですよ。これから伸びそうという雰囲気があったんですね。当時はあちこちでプラグインを作っている人がいて、みんなで作っていくオープンソース的な感じがインターネットぽくてよかった」。
さっそく「シネマカフェ」でも導入し、業界人による日記のコーナー「セレブログ(現:映画業界人ブログ)」を立ち上げた。
「実際に入れてみたら、カスタマイズの自由度が非常に高くて、これはブログじゃなくて普通のページ作りに使えるんじゃない?と気づいたんです」。
同社では一般企業のサイトを運営していたが、ニュースなど更新のたびにクライアントからディレクターに連絡が入り、ページを作成してアップするというアナログな作業を繰り返していた。
「連絡を取り、確認し合い、更新していくというアナログな作業が、あまり"インターネットっぽくない"という思いがあった。そこで、Movable Typeをカスタマイズすれば、その作業から脱却できるのではないかと思ったんです」。
当時はまだブログといえば日記の時代。そんな初期から、CMSとしての可能性を感じていたというわけだ。さっそくクライアントが自ら操作できるようにカスタマイズし、新たなフローを確立した。
「エントリーを作成する際に画像をアップしてもらう、という作業を理解してもらうのが難しかったので、そこではファイル名だけを書けばいいようにするなど、トラブルが起きないようにカスタマイズしました」。
当時、カフェグルーヴ内の開発陣はMovable Typeに「ハマっている」状態。メーリングリストにも、プラグイン情報などが飛び交い、実験的なカスタマイズも次々試していたそうだ。
■Movable Typeに影響を受けたサイト管理システムも開発
2005年頃のシネマカフェは雑誌的な性質が強く、月2回の特集と、週1回のニュース記事を更新するというスタイルだった。「セレブログ」開始からシネマカフェは、更新頻度を高めていった。
「Movable Typeを導入したのは、更新性を増したかったという意味合いもあります。従来の記事だけだと、ユーザーはシネマカフェを週に1度しか更新しないメディアだと認識してしまう。ブログがあると、ほぼ毎日の更新が実現するので、頻繁に訪れてくれるようになるんです」。
ブログ導入の成功は、シネマカフェ本体のサイトのあり方を考えなおすきっかけになる。現在の形へとリニューアルしたのは2006年7月。毎日のニュース更新や、上映スケジュールの掲載、作品データベースとの連携などを取り入れ、より速報性と利便性が高いサイトへと生まれ変わった。
リニューアルの際に取り入れられたのが、自社開発のサイト管理システム「MMS(メディア・マネージメント・システム)」だ。ライターや編集が文章や写真を各自アップし、記事を作成するシステムだが、Movable Typeに多大な影響を受けて作ったという。
「操作フローでも参考にしましたし、再構築などの概念など、かなりの部分で影響されています。いわばメディア開発に特化した独自のMovable Typeを開発したみたいな感じですね」。
あえて自社で独自開発したのには理由がある。作品や会員情報のデータベース、メールマガジンなど周囲との連携が多く、いちから開発したほうが効率がよかったからだ。
しかし、サイト内のコンテンツすべてが自社開発のMMSで構築しているわけではない。部分的にMovable Typeを利用したコンテンツも存在する。現在Movable TypeをCMSとして使っているのは、独占試写会、作品ごとのタイアップコンテンツ、映画業界人ブログなど、データベースと密に連動しないコンテンツが主だ。
「毎回システム開発するのはたいへん。Movable Typeだと、すぐにコンテンツを立ち上げることができますから」。
たとえば独占試写会は元々予定されていなかったが、配信会社からの要望が多く、設けられたコンテンツだ。Movable Typeなら、短期間での立ち上げにも簡単に対応できるというわけだ。
■ "ブロガー試写会"や"ブログ募金"で映画も大ヒット
シネマカフェのコンテンツ「独占試写会」は、いわゆる一般消費者向けの映画試写会参加募集コーナーだが、ユニークなのは、ブロガーを対象とした試写会を開催しているところ。
「今までの試写会は、たくさんの人にきてもらってクチコミで評判を広めてもらう、という少し曖昧な効果を期待していました。でもそれは、費用がかかるわりにプロモーション効果が計りづらい。それならばと、バイラル力を持った人に絞ったブロガー試写会を始めたのです」。
ブロガー試写会が終わると、感想などを自分のブログに書いてもらい、トラックバックを送ってもらう。
「それぞれのブログは小さなメディア。その周りにはそれぞれの読者がいる。うちのようなメディアとそれらのブログが重なることで、プロモーション訴求の幅が広がります」。
なお、応募の際に記載してもらったブログのURLは、編集部で逐一チェックを行ってデータベース化している。チェック内容は更新頻度やアクセス数、カテゴリーなど。その数はすでに数千件に達し、対象を絞った試写会を開きたいと配給元が要望を出してきたときにも、すぐに対応が可能だという。
作品プロモーションへのブログ活用も活発に行っている。
「以前のプロモーションブログは、宣伝プロデューサーが登場して告知を行うスタイルがほとんどだったんですけど、最近は作品内容に関連した企画モノのほうが多いですね。今うちで掲載している『教えて!空手道』のように、身を削る系のほうが人気があります」。
『教えて!空手道』は、空手がテーマの映画「黒帯」の公式ブログ。空手素人の一ライターが空手について学んでいく様子を日々綴っている。読者と同じ目線で書かれているので、共感の度合いも高いのだろう。また、2007年3月に劇場公開された「約束の旅路」という作品のプロモーションでは、ブログパーツを配布したり、トラックバックを集めるという「ブログ募金」を実施し、話題を集めた。
「弊社初の配給作品だったので、なんとかインターネットプロモーションだけでもヒットすることを実証したかった。そこで、"あなたがブログで書いてくれれば弊社が1ブログ50円を国連難民高等弁務官事務所に寄付します、みんなで井戸を掘りましょう!"というキャンペーンを行うことにしました。おかげさまでキャンペーンは大成功し、井戸を掘ることができたのです。本当にいい映画なので、宣伝っぽくしたくなかったんです」。
結果的にこのキャンペーンは大成功を収めた。1800近くのトラックバックを集め、映画も大ヒット。近々DVDも発売される。
Movable Typeで構築されている『教えて!空手道』。動画もアップされていて、人気が高い
■優れたCMSとしてのMovable Type
カフェグルーヴが自社でシステムを開発できる高い技術力を持ちながら、Movable Typeを使い続けているのには理由がある。
「僕らはMovable Typeをブログとは認識してないんですね。バイラル力があるブログというよりも、優れたCMSツールとして捉えている面が大きいです。僕らのようなベンチャーにとって、優れたCMSツールとは、SEOなどの効果と同時に、制作側のユーザビリティが優れていること、デザイナーがデザインに集中できること、つまり、いかに内部工数を省くかが重要なんです」。
今、シネマカフェに関わっている人数は、人月換算で編集部が4人、制作が1.5人程度。
「メディアを運営していくうえで、ランニングの工数をどこまで押さえるか、その上でどこまでクリエイティブを高められるのか、というのは常に考えています」。
しかしながら、それはすべて自動化することを目指しているわけではない。
「誰でもできる作業はシステムにまかせよう、というのが基本的な考え方。たとえばデザイナーしかできない部分はデザイナーがやるべきです。Movable Typeだと、自由度を比較的下げずに自動化が可能になります。導入後は、コーディングの時間をデザインそのものにあてることができるようになったので、クリエイティブ力が向上したと思いますね」。
編集部としても、自ら発信する姿勢、主張のある情報提供は常に意識していきたいという。
「一部にCGM的な機能があるのはいいんですが、フルCGMになってしまうとメディアでなくなってしまいますから。ブログサービスを提供するのではなく、メディアカンパニーとして、ブログに書いてもらえるような元ネタを提供することのが大事だと思っています。つまりシネマカフェが目指すのは、メディアとしての力を高めることになります」。
むやみに省力化を行うのではなく、ムダを省くことで人間本来の能力を引き出す。自社開発のMMSと併用して、Movable Typeをとことんまで活用することで、シネマカフェの理想は加速度的に実現に向かっているようだ。
お話を伺った岡島さん
事例データ
・Movable Type(基本ライセンスパック)
・ブログをはじめた時期:2004年3月
・はじめた理由:汎用性が高く、優れたCMSとして利用価値が高いという確信があった
・制作を担当したのは:内部
・何か手ごたえはありましたか?:コメントやトラックバックでユーザーの声が直接聞けるようになった。内部の制作工数が減った