グルメ情報検索サイト最大手として収録店舗数50万件を擁し、月間11億PVのアクセスを集める「ぐるなび」は、利用者の多様な検索ニーズに応えながら成長を続けている。同サイトは、TOPページを含めた主要なページのいくつかをCMSに移行し、情報更新のスピード向上や、情報を容易に更新できる体制を整備した。CMSには、「Movable Type」(以下、MT)のエンタープライズ版「Movable Type Advanced」に、多段階の承認ワークフローなど、ハイエンドCMSの高機能を追加したソリューション製品「PowerCMS」の組み合わせた「Movable Type Advanced + PowerCMS」が採用された。今回のプロジェクトについて、同社 企画開発本部 UI室の鈴木健太郎さん、出口崇さん、開発部門の対馬祐治さん、岡野圭介さんにお話を伺った。
情報更新のスピードや容易さを高め、社内に乱立していたCMS基盤を一元化したい
同社がCMSを導入したページは、まず「ぐるなびHOME」が挙げられる。TOPページの更新が頻繁に発生する箇所をCMS化し、情報の更新性を高めている。
「TOPページには様々なバナーがあり、それぞれの県版にもバナーがありますが、県ごとに異なるバナーを掲出したいという要望があり、これを手作業で設定するのは大変なので、CMSにより自動化したいと考えました」(出口さん)
また、ページ下部にはキャンペーン情報などのテキストリンクがあるが、これもそれぞれの県ごとのTOPページで表示される情報が異なり、また、様々な部署の担当者が更新に携わっている。そのため、情報更新のスピードを高め、更新を容易にする仕組みは急務だったという。
このほかにもCMSが導入されているページがあるが、その中で代表的なものは、「ニュースリリース」のページと「ぐるなびWEBマガジン」である。
「ニュースリリースのページは、先ほど述べたキャンペーン情報のリンクと同じ考え方です。また、『ぐるなびWEBマガジン』は、食に関するコラムなどを掲載する編集記事的な切り口のページで、記事をライターに書いてもらい、更新するというオーソドックスなCMSの使い方をしています」(鈴木さん)
CMS導入の背景には、上述のような更新のスピード向上や、容易に情報が更新できる仕組みを整えるなどの目的に加え、以下のようなポイントが挙げられる。
「それまでは社内の各チームで、独自にスクラッチで開発したり、商用サービスを使ったりと、CMSが乱立している状態でした。そこで、サイト基盤を統一し、運用体制もしっかり設計した上で、全社的に展開できるようにしたいと考えました」(対馬さん)
「機能面では、休日や夜間といった担当者が不在のときにページを更新できるよう、タイマーで公開を設定できる機能があることも必須でした」(鈴木さん)
静的なページ生成、メーカーサポート、細かな権限設定などの機能面のメリットが決め手
CMSの選定は、上記を踏まえ、2012年から2013年にかけて行われた。
「商用、オープンソースを問わず、複数のCMSを候補に、どれが自分たちのニーズに最も合致しているかを検討しました。MTとPowerCMSに決めたポイントの一つは、静的なページ更新の仕組みという点です。サーバーへの負荷を考慮し、動的にページを生成するCMSは候補から外しました」(岡野さん)
「メーカーサポートや、細かい権限設定、承認ワークフローがしっかりしていた点も重視しました。1ライセンスでインストールサーバー数、利用ユーザー数が無制限で、エンタープライズCMSの中ではとても低コストであることなどが決め手となり、Movable Type Advanced + PowerCMS を選びました」(対馬さん)
選定後、約半年をかけて導入(移行)作業が行われた。インフラチームでは、汎用的なサイト基盤にするための設計作業に多くの時間を割いたという。
「製品がしっかりしていたので、インフラを構築し、CMSをインストールして動かすのは簡単でしたが、導入後に想定される社内の様々な要望に応えられる汎用的な仕組みにするための設計に時間をかけました。静的なページ更新に合わせて、サーバーやストレージの構成や、管理画面側の承認フローをしっかり考えています。また、社内のどの部門からCMS利用の話が来ても、独自にCMSを使うことなくMTを利用するよう、社内横断的な体制づくりを目指しました」(対馬さん)
一方、フロントエンドチームでは、コンテンツの移行作業に多くの時間が割かれた。
「移行作業は、主に既存コンテンツのCMSへの載せ替えです。約5年分の記事ページについて、HTMLファイルをMTに載せ替えるのですが、データ自体の移行もさることながら、レイアウト調整など管理画面側で制御するために、マークアップを修正する必要があり、これについては、最初はやり方もわからなかったので苦労しました」(鈴木さん)
チームで手分けし、基本的にはすべて社内で移行作業を行い、約1カ月で5年分の記事の移行は完了。カスタムフィールドの作り込みなど、管理画面のカスタマイズを並行して行い、移行作業は2012年12月に完了した。その後、担当者の操作の習熟などの移行期間を3カ月ほど設け、2013年4月から本格的に稼働が開始された。
タイマー設定のおかげで、担当者が休日の夜などに更新作業をすることはなくなった
MTAとPowerCMS導入による効果はどのようなものがあったのだろうか。
「今まで手作業で更新していたものがMTにより自動化され、更新が楽になりました。また、タイマー設定の機能のおかげで、担当者が土曜日の夜9時にニュースリリースの更新作業をするということもなくなりました」(鈴木さん)
「更新までのフローも、今までは担当者から依頼が来て、ページを制作、テスト環境にUPして確認依頼と、何度もやり取りが発生していました。これが、導入後は、依頼部門の担当者自身が情報を更新できるので、大幅に省力化されました」(鈴木さん)
こうした更新作業におけるメリットに加え、社内のCMS基盤が一元化されたことによる効果も挙げられる。
「新規でサイトを立ち上げたいという企画の相談が来た際に、CMS基盤を用いてスピーディにサイトを立ち上げることが可能になりました」(岡野さん)
「スクラッチで開発したプログラムは、必ず社内の品質チェックを経ることになります。その点、MTA+PowerCMSは、すでにチェックを受けオーソライズされた基盤なので、社内チェックの工程が大幅に短縮されるというのも、スピーディな立ち上げに寄与しています」(鈴木さん)
現在、社内では、プロジェクトの案件ごとにアカウントを発行し、アカウントごとにアクセスできるコンテンツをMT側で設定して運用している。
「更新担当者のMT(PowerCMS)への習熟については、導入当初は管理画面を触ったことのない人もいて、操作の戸惑いが多少あったものの、マニュアルを作成してサポートすることでクリアできました。一度使えば、次からは慣れてスムーズに操作できるので、問題は感じないレベルです」(出口さん)
「MTについては、再構築に時間がかかるという声はあります。当初は、スモールスタートでCMS用のサーバーを共用で使っていましたが、現在は、管理サーバーは専用にし、さらに複数立てることでリソースを分散する対策をとるなど、パフォーマンスの問題に対処しています。PowerCMSには、『DynamicMTML』という動的生成の機能も備わっているので、場合によっては、臨機応変に動的生成のニーズに応えることもできると考えています」(対馬さん)
増え続ける情報発信のニーズに応えるCMS基盤として、今後もさらなる進化を期待
今後、増えていく情報発信のニーズに対して、MTAおよびPowerCMSはどのような解決策を提示できるか、コメントをいただいた。
「社内では、まとめ系の情報発信をはじめとするキュレーションメディアの要望がよく聞かれます。MTは、そうしたニーズにもとてもマッチしていると思うので、これからどんどん活用シーンが増えていくと思います」(鈴木さん)
「インフラ面では、サーバーの負荷を考えると、静的なページ生成がパフォーマンス的には有利と考えています。しかし、先ほども述べたような動的生成のニーズもありますし、パブリッシュしたものを別のプログラムで表示させるというシーンも増えていくでしょう。これについては、ページをまるまるパブリッシングするのではなく、パーツだけ動的に吐き出すとか、デザイナーや開発担当とインフラチームが連携して、最適な仕組みを検討していきたいです」(岡野さん)
最後に、MTとPowerCMSに今後期待することをコメントしていただいた。
「専門知識がなくても機能追加がもっと容易にできる仕組みがあるといいと思います。社内でプラグイン開発をすることはあまり多くないのですが、汎用プラグインでは実現できない機能を容易に追加できるようになれば、さらに社内に利用できるケースが増えると思います。どんな担当者が更新しても、同じように更新できる汎用性の高い仕組みにMTやPowerCMSが進化していくことを期待しています」(鈴木さん)
グルメ情報検索サイトとしてますます増えていく情報発信ニーズに応えるCMS基盤として、MTとPowerCMSに求められる役割は今後もますます大きくなっていくに違いない。
写真左からぐるなびの岡野圭介さん、対馬祐治さん、鈴木健太郎さん、出口崇さん
事例データ
- 使用した製品: Movable Type Advanced + PowerCMS
- ウェブサイトURL:http://www.gnavi.co.jp/
- CMSへの移行が完了したのは:2013年4月
- CMS化の理由:情報更新のスピード向上、容易に情報を更新できる仕組み作り、全社的なサイト基盤の統一を目的として。
- どのような手ごたえがありましたか?:更新作業の負荷軽減とスピード向上に加え、新規サイト立ち上げまでの時間が短縮された。