KAAT神奈川芸術劇場は、舞台芸術作品の創造、文化芸術に携わる人材の育成、地域のにぎわいの創出など「3つのつくる」をテーマに、2011年1月にオープンした「創造型劇場」だ。劇場のブランディングとチケット販売を担う公式サイトは、「Movable Type」をベースとしたプラグインパッケージ「MTPlu::s」(エムティ・プラス)が採用され、更新性向上やソーシャルメディアとの連携等の取り組みがなされている。KAAT 広報担当の前島智子さんと、サイト構築を担当した合同会社アライアンス・ポートのプロジェクト・マネージャーの早瀬将一さん、デザイナーの小川裕子さんにお話をお伺いした。
お客様に幅広い芸術を提供する施設として
KAATは神奈川県民に優れた芸術の鑑賞機会を提供することをコンセプトにオープンした劇場だ。「既に完成した演目を上演する『箱』としての機能のみならず、KAATでは稽古場を併設するなど、ひとつの演目を作り上げるまでのプロセスが集約されている点が特徴です」と前島さんは語る。KAATの館内のホールやスタジオは、出演者の表情やセリフが観客にちょうどよく届くよう、客席レイアウトや音響特性などが設計されているという。
「上演する主な演目のジャンルは演劇やミュージカル、ダンスですが、文楽や落語といった伝統芸能を含め、演劇というジャンルにとらわれないラインナップを心がけています(前島さん)」。このように、KAATは幅広い層のお客様に対してバラエティ豊かな芸術を提供している。公式サイト構築は、こうしたKAATの特性を勘案して進められた
KAAT神奈川芸術劇場 前島智子さん
前島さんは以下のように語る。「まず一番にお願いしたのはチケット販売への導線作りです。チケットの先行予約などが可能な『かながわメンバーズ』(通称『KAme(カメ)』)と呼ばれるWeb会員組織への誘導や、登録促進に寄与するというのが第一のポイントでした」。また、幅広い客層に向けてKAATを知ってもらい、好きになってもらう「ファン作り」や、突発的に開催が決まる演目がらみのイベント等の告知に対応できる「情報更新のスピード感や容易さ」といったポイントが要件として挙げられたようだ。
情報更新の容易さ、カスタマイズの自由度からMTを採用
制作会社選定は5〜6社によるコンペで行われた。「2010年4月ごろから選定を開始して、各社の提案内容を吟味して7月ごろにアライアンス・ポートに決定しました。サイトがオープンしたのが2010年10月7日ですので、事前ヒアリングを含めて約3ヵ月程度の開発期間です(前島さん)」
更新ツールにMTを採用した理由についてアライアンス・ポートの早瀬さんは次のように語る。「『内部で専門知識を持たない人でも容易に情報更新ができる』点を考え、また、劇場の複雑な運営形態に鑑みてカスタマイズの自由度からMTが使いやすいと考えました」。
アライアンス・ポート 早瀬将一さん
公演情報は予定されたポストトークのゲストが直前になって決まるなど、何かと情報の変動が多い。また、劇場は土日も稼働しているので、情報の更新や修正を制作会社経由で行う業務フローでは、情報の即時性が保てないのだと前島さんは語る。「各社とも提案内容にCMSが盛り込まれていました。その中で、アライアンス・ポートを選んだ決め手は、デザインを含めた提案内容の分かりやすさです」。アライアンス・ポートは、技術的な分野の質問に対しても難解な専門用語ではなく、自分たちに理解できる言葉で分かりやすく説明してくれたため、サイトの全体像がよく理解できたのだという。そうした積み重ねが「一緒に仕事をしたい」という信頼感に繋がったようだ。
「あそこに行けば何か面白いことがある」と思ってもらえるサイトを目指して
サイト構築に際しては、MTをベースにしたプラグインパッケージである「MTPlu::s」のいくつかの機能が導入されている。アライアンス・ポートの小川さんは次のように語ってくれた。「『ファン作り』という意味では、一方的な情報発信で来場を待つというスタンスではなく、お客様と一緒に公演を創っていく、そのプロセスを共有したいということでいくつかの仕掛けを提案しました」。特徴的なのがソーシャルメディアとの連携だ。「公演ごとに固有のTwitterのハッシュタグを設定、2月より発売となった『MTPlu::s for Social』のプラグインGetTweetSearchを先行導入して、各公演情報ページには、そのハッシュタグを含むつぶやきが全て表示される仕組みになっています(小川さん)」。
アライアンス・ポート 小川裕子さん
このように、テキストだけではなく、写真やビデオ、ユーザーからのつぶやきなどを掲載して、公開前から話題を喚起する仕組みが盛り込まれている。作品の個別ページを見ると、KAAT側で入力した公演情報と、公演に対するお客様のTwitterのつぶやきがタイムラインとして一覧できる。「Twitterのハッシュタグは、2週間程度でTwitter上から消えてしまうので、ハッシュタグ付き発言を保存するプラグイン(GetTweetSearch)を導入し、KAATのサイト上にはアーカイブされた発言が表示される仕組みとしました(早瀬さん)」。こうした双方向的な公演プロモーションの仕組み作りにも「MTPlu::s」の強みが生かされている。
Twitter連携のおかげで更新の手間をかけずに大きな広報効果が得られた
サイト本体とKAATのTwitterアカウントへの情報更新は前島さんがほぼ一人で行っている。「Twitterには毎日必ず投稿するよう心がけています。平均で1日4〜5回、イベントがあるときは中継的なことにもトライしています」。Twitter連携のおかげで情報更新は助けられていると前島さんは語る。「Twitterは更新の手間がそれほどかからないわりに広報効果が大きいです。公演が始まると、お客様が感想をTwitter上に書き込んでくれます。影響力のあるユーザーの書き込みで場が盛り上がったり、臨場感を共有できたりするのがよいですね」。
限られた人員で効果的な広報を行うツールとしてもMTの優位性が発揮されているようだ。「文楽などの伝統芸能は昔からの固定ファンがいらっしゃいますし、落語ですと中高年の男性のお客様が多いです。一方、先鋭的な演劇などの作品は若いお客様が多いので、新しい情報ツールも積極的に利用する傾向があります」。このように、作品やターゲット層に応じて情報発信のタイミングやツールを変えるといった運用も、MTのおかげで容易に行えると前島さんは語ってくれた。
その他の導入効果についてはどうだろうか。「サイト開設から日が浅いですが、サイトデザインがよいというご意見はよくいただきます。また、情報発信の仕組みでも、容易な情報更新や即時性を実現してくれました(前島さん)」。オープン当初から高いアクセス数を維持しており、サイト開設の当初の目的は達したとのご評価をいただいた。
チケット関連の情報の整理、整備が今後の課題
今回のサイト構築を通じて、アライアンス・ポートの評価について前島さんにお伺いした。「仕事自体がきちんとしているのはもちろん、私たちの立場に立ってアドバイスや提案をいただけるので助かっています。問い合わせに対するレスポンスも早く、安心して仕事を任せられました」。
また、今後の課題や機能拡張については次のように語ってくれた。「今、計画されているものとしては、館内の施設情報などのまだ公開されていないページを順次、公開していくことです。また、ワークショップなどの公演以外のイベントについてのページを開設する構想もありますが、これは検討中ですね。実際に運用してみて、足りない機能を補充していく、ブラッシュアップしていくことになると思います」。
最後に、アライアンス・ポートに期待することについて次のように前島さんは語ってくれた。「演出プランが決まって、追加で席を売り出したりとか、チケットの動きによって追加の席を販売したりというようなイレギュラーな対応があります。また、完売した演目については当日券の問い合わせへの対応が必要ですし、そうしたチケット関係の情報整理、整備をしていくのが今後の課題です。アライアンス・ポートには、入力作業などの業務周りの省力化や、情報の見せ方を切り替えるような仕組みをご提案いただきたいですね」。
ユニークな「創造型劇場」として、日々お客様とともに"ワクワク"をつくり出すKAATのWebサイト。今後ますますファンを増やしていくに違いない。
事例データ
- Movable Type 5.03
- サイトを公開したのは:2010月10月7日
- はじめた理由:劇場のブランディング、チケット販売への導線作り
- 制作を担当したのは:合同会社アライアンス・ポート
- 何か手ごたえはありましたか?:ソーシャルメディアとの連携等でサイトは活性化している