日本国内の女子スポーツで、「なでしこジャパン」の活躍とともに、注目を集めている女子サッカー。その基盤となっているのが一般社団法人日本女子サッカーリーグだ。100人近いスタッフのいる男子サッカーのJリーグとは違い、6名というコンパクトな事務局でリーグのすべてを切り盛りしている日本女子サッカーリーグ。今シーズンのスタートに合わせ、少ない人数で速報性を保ちつつ効率的な運用を実現することを目指し、公式サイトのリニューアルを行った。今回は、その日本女子サッカーリーグ事務局の向井淳也さん、岩倉三恵さんと、構築を担当したソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の鈴木直樹さん、中里周平さん、藤沼瑞葉さんに、サイトリニューアルについてお話を伺った。
少人数で、効率的かつ速報性を持ったサイトを運営したい
日本女子サッカーリーグは、日本サッカー協会から独立した団体で、Jリーグなどとも連携しながら、各チームや選手たちを支えている。各チームや選手の認知度向上などに努めてきたが、日本女子サッカーリーグの顔ともいうべきオフィシャルサイトは運営面で問題があったという。終了した試合の結果を掲載するのに時間がかかるなど速報性に乏しかった。
また、サイト管理の負担軽減も求められていた。サイトを運用している日本女子サッカーリーグの事務局のメンバーは6人いるが、全員がサイト専門ではなく、ほかの業務と並行して携わっている。そのため、サイト運営にかかる作業の負担はできる限り最小限に抑えたいという事情があった。
運営面以外では、デザイン面で見やすさの向上のほか、リーグ横断的なコンテンツの充実が挙げられる。これはリーグに参加する各チームが持つウェブサイトのコンテンツが均一化されておらず、その整備まで手がなかなか回らないという事情がある。そこでカギとなるのが、リーグ公式サイトにおける各チームのブログだ。
「特定チームや選手のファンに、ほかのチームや選手のブログも見ていただくことで、リーグ全体を盛り上げたいという目的があります。いろんなチームのブログ情報が出ていると、にぎやかになりますからね」(中里さん)
こうした数々の事情から、2015年12月、サイトのリニューアルを決定した。
リニューアルの“肝”は、膨大な情報量をより効果的に見せるための情報設計
旧サイトのCMSはフルスクラッチで作られていたが、リニューアルを機にMovable Typeに切り替えることになった。その理由として、制作を担当したソニーネットワークコミュニケーションズの持つ、ソニーグループ内での開発をはじめとする豊富なMTを使用した構築実績が挙げられる。また、同社では鹿島アントラーズなどで採用されているサッカーチーム・オフィシャルサイトに特化したシステム開発も手がけてきた。最大の課題であった速報性は、独自に開発した試合速報APIを用いて実装し、サイト全体はMTを使用して構築することに。
「このサイトは、3つのウェブサイトと39個のブログから構成されています。それを一つのサイトの形にまとめるのがすごく大変だったんですが、そこはMTの得意なところ。設計の段階では、グローバルテンプレートなどを駆使しつつ、共通化できるパーツと各チームのパーツ、どこをどう管理するかに一番苦労しました」(鈴木さん)
2015年12月の決定以来、CMS化する部分、別途システム化する部分、静的ページで制作する部分など、サイト全体の情報設計の検討を進めてきた。情報量が多いため設計に時間や手間がかかる中、トップページで試合速報、新着情報、動画コンテンツ、各チームの選手ブログなどの最新記事を表示して網羅性を高めた。「なでしこリーグ」で検索したユーザーのほとんどがトップページを訪問することから、トップページでは更新感の高さを備えつつ、各コンテンツへ遷移しやすい流れも整備したという。
速報性と並んでポイントとなるコンテンツが動画とブログだ。動画はソフトバンクのスポーツ動画配信サービス「スポナビライブ」を導入。従来は画面の横幅を半分以上占めるほどのサイズで動画を表示することができなかったが、今回のリニューアルで表示が可能となったほか、Movable Type を導入したことで、更新頻度も上げることも実現している。
ブログ情報もMovable Typeの強みが発揮されたポイントだ。ブログはリーグ加盟全32チームが参加し、定期的に更新されている。トップページには、最新記事4本が表示され、記事のタイトルや更新日時のほか、執筆した選手とチーム名、ブログ記事で使用した画像が掲載されるなどビジュアル面を強化。各選手の最新情報が掲載されることで、女子サッカーリーグの盛り上がりをアピールすることが狙いだ。
リニューアルではCMSの管理画面のカスタマイズにも力が入れられた。UIには「FreeLayoutCustomField」というプラグインを使い、情報を違和感なく更新できるように作りこまれている。これにより、直感的な更新作業を実現、入力の作業負荷軽減を図った。
試合の放送予定をお知らせするページの編集画面。
FreeLayoutCustomFieldプラグインにより直感的な情報更新を実現している
また、各チームのブログでは、絵文字も多用されている。Movable Type の基本機能としては絵文字の入力はサポートされていないが、チームや選手の近況をお知らせする際に、親しみやすさを感じてもらえるよう、プラグインを入れてリッチテキストエディタ上で絵文字を入力できるようにカスタマイズしている
ブログ記事の編集画面。絵文字の入力がサポートされている
さらにモバイル対応も重要だった。日本女子サッカーリーグのオフィシャルサイトのアクセスは、試合の速報を確認する人が多いこともあり、スマートフォンが半数以上を占めている。今回のリニューアルでは、レスポンシブデザインが採用され、スマートフォンでも最適化された形で閲覧できるように配慮されている。
リーグ参加チームとの連携を深め、より効率的な運用を目指して
数々の施策を盛り込んだ末、2016年3月14日、リーグ開幕に合わせてリニューアルオープンした。3カ月という短い準備期間だったが、トップページは、試合の経過に合わせて得点などの最新情報が反映されるのに10分以上かかっていたのが3分以内まで短縮、速報性の向上を実現した。
さらにサイトの利便性も大きくアップ。従来、各チームの試合告知は日程や会場などを掲載していたが、リニューアルではチケット購入ボタンを設置。各チームのオフィシャルサイトなどに遷移してユーザーが購入できるような仕組みを整えたほか、無料試合、スポナビライブやBSでの放送予定などの情報もわかるようになった。
そして、デザイン面でも大きな変更が行われた。日本女子サッカーリーグはリニューアルで「大きく変わった」ことを感じてもらいたいと考え、ソニーコミュニケーションズと打ち合わせを重ねた末に、ピンクを基調としたデザインから赤へ刷新。女性の強さやなでしこリーグの勢いを表現した。こうしたさまざまな工夫を盛り込んだことで、リニューアル後にPVが大きく伸びた。
今後の目標としては、運用を各チームと共同で行っていくこと。現在は各チームの選手が書いた記事を事務局が受け取り、投稿から公開までを行っているが、ゆくゆくは、チームブログの公開だけは事務局が行うが、投稿作業はチーム側で行うことを目指している。各チームが分担して定期的に記事を投稿する体制を目指している。現在は、チームごとに更新頻度や文章の質などにばらつきが出ないよう、各チームとの連携を深めつつ、ブログ更新に関する意識喚起を図っている。
また、試合の速報でもチームとの協力が欠かせない。トップページの試合速報は、終了したらマークが表示されるが、その時は終了を知らせるボタンをチーム担当者か試合会場にいる事務局員が押すことになっている。この操作は事務局でも可能だが、天候などの影響で中断することもあり、試合終了予定時刻になっていても終わっているとは限らないため、事務局側で行うことはできない。速報性を高めるためにも、チームと協力を密接にする必要があるのだという。
「やはり前と変えた感は絶対に出したかったんです。一つひとつのコンテンツももちろんですが、全体のテイストも、いろいろ意見交換しながら進めさせていただいたので、我々としては満足のいく形で反映されていると思います。(リニューアルへの反応として)変わってすごくよくなったねという声ももちろん多いですが、見にくくなったと言われたこともあって。そういったところは今後の部分に生かしていきたいですね」(向井さん)
日本代表なでしこジャパンの活躍から年々注目度が高まる女子サッカーだが、情報発信での取り組みではまだまだやることが多い。リーグを盛り上げるため、日本女子サッカーリーグの果たす役割と期待は大きい。今後、各チームとその選手たちがリーグと一丸となり、情報発信に取り組むことが求められている。ファンの期待に応えたコンテンツやサイトづくりを続ける日本女子サッカーリーグの活動に注目していきたい。
写真左から一般社団法人日本女子サッカーリーグ事務局の向井淳也さん、岩倉三恵さん、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社の藤沼瑞葉さん、鈴木直樹さん、中里周平さん
事例データ
- 使用した製品:Movable Type
- ウェブサイトURL: http://www.nadeshikoleague.jp/
- ウェブサイトをリニューアルしたのは:2016年3月
- リニューアルの理由:速報性の向上、運用の負担軽減
- 制作を担当したのは:ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
- どのような手ごたえがありましたか?:速報性が向上、動画や選手ブログと言ったコンテンツを用意することで各チームのサイトとの差別化を図ることができた