「自主制作の映画」に焦点を当て、映画の新しい才能の発見と育成をテーマに1977年にスタートしたPFF(ぴあフィルムフェスティバル)。PFFのサイトは、映画祭の情報以外にも、膨大な情報が蓄積され、サイトの情報設計の見直しとデータの一元的な管理が課題だった。そこで、Movable Typeの最新バージョンであるMovable Type 7(MT7)を用いたリニューアルが行われた。リニューアルの目的や経緯、効果等について、一般社団法人PFF 映画祭事務局の茨木玲子さんと中山雄介さん、リニューアルを担当した株式会社COLSIS(コルシス)の石山舞さんに話を聞いた。
膨大な情報を整理、サイト構造の見直しと速報性向上が課題
1977年のスタート以降、一貫して自主制作映画の監督や作品を紹介することを軸に活動を続け、現在、第一線で活躍する映画監督が120名を超えるPFF。
コンペティション「PFFアワード」による新人監督の発掘のほかに「PFFスカラシップ」と呼ばれる育成にも取り組んでいる。これは、長編映画の企画から公開までをPFFがプロデュースするもので、PFFアワード」で受賞した監督の中から毎年1名が選ばれてきた。
リニューアル前のPFFの公式サイトの課題として、茨木さんは「過去40年の膨大な情報が蓄積され、ボリュームが大きくなってきている」点を挙げた。
「リニューアル前のウェブサイトは、機能やページが追加されるたびに、増築を繰り返してきていました」(茨木さん)。
PFFのサイトはその性質上、過去から現在に至る「PFFアワード」や「PFFスカラシップ」作品に関するデータベースの役割を果たす。「毎年約20本の入選作品が追加される中で、作品情報をアーカイブし、配信や上映会への貸し出しなどPFFの幅広い活動を紹介する機能もある」と茨木さんは説明する。
しかし、これまでの歴史で増築を繰り返してきたサイトは、動線が複雑になっており、たとえば映画祭のコンペに応募しようと考える監督がサイトに来訪したときに「応募した作品は、どういうプロセスで選考が行われ、入選した後はどのようなチャンスに遭遇していけるのか、イメージすることが難しい構造となっていた」という。
また、「毎年行われる映画祭のイベントサイトは別に作ります。PFFの公式サイトは映画祭の枠にとらわれずに、PFFの活動をきちんと外部にお知らせできるホームページにしたかったのです」(茨木さん)。
そこで、情報を整理し、サイト構造を見直すためにサイトリニューアルを決断する。
これまでCMSとして、MT6がサイトの一部に導入されていた。中山さんは「『お知らせ』の部分はCMS化され更新が可能になっていたものの、メインとなる映画祭やアワードといった情報更新は、外部の担当者にお願いして手動で行っていた」と説明する。
映画祭は“旬の”情報を扱うこともあるため、マスコミにリリースを出してから、すぐにサイトに来訪してもらえるような動線の連携は重要なポイントとなるため、「フルCMS」化による速報性の向上は大きな課題だった。
MT7の「コンテンツタイプ」で「ワンソース、マルチユース」を実現
サイトリニューアルを担当したコルシスの石山さんは、「MT7を活用することのポイント」を次のように説明する。
「MT7から、『コンテンツタイプ』が利用できるようになりました。作品情報は、PFFのアワードや映画祭など、さまざまな場所に掲出されます。それらの管理、活用を容易に行うためには、コンテンツタイプによる一元管理が有効だと考えました」(石山さん)。
コンテンツタイプとは、これまでの「記事+カスタムフィールド」とは異なり、出力結果を考慮して構造化されたデータを作成できる Movable Type 7 から搭載されている新しい機能だ。コンテンツタイプ同士のリンクや、要素ごとにコンテンツをコンポーネント化することで、「ワンソース、マルチユース」でコンテンツを活用することを可能にする。
膨大な量の作品情報をコンテンツタイプで管理し、情報を修正、更新した際は、それぞれの掲出先の情報が一元的に反映される。これにより、管理者の運用負荷軽減につながり、情報の利活用がさらに進む効果が期待される。
中山さんは「作品情報は、私たちが過去の作品などを調べる際のデータベースとしても活用している」と話す。ある監督の情報を探してたどっていくと、PFFのサイトにしか掲載されていない情報というのもある。40年分のアーカイブを一元管理し、利活用を促進していく。これは今後の拡張性を考えても重要なことだった。
サイトリニューアルは2018年5月に提案され、その後、プロジェクトがスタートした。リニューアル時に注力したポイントとして、茨木さんは、「情報の整理」を挙げる。
「PFFのアワードに応募する監督の視点に立って、必要な情報を整理し、足りないページを追加するようにしました」(茨木さん)。
たとえば、自主映画を著名な映画監督や俳優に審査してもらえるというPFFの独自価値を訴求できるよう、最終審査員のページを新規追加するとともに、コンテンツタイプを駆使して関連する情報をリンクさせ、目当ての情報が階層深く埋もれてしまわないよう、サイト構造を見直した。
また、サイトのナビゲーションの文言も、「来訪した人が容易に情報にたどり着けるよう、『作品を応募したい』『映画祭に行きたい』というように、ユーザーの目的視点で、わかりやすい言葉に置き換えた」そうだ。
一方、機能面では「作品データベース」が目玉となる。これは、監督名やタイトルで作品を検索できる機能だ。また、更新のしやすさ、速報性を大幅に高めるため、コンテンツタイプによってTOPページのスライドバナーもMTで管理、更新できるようになっている。
そして、TOPページ下部の「PFFの活動」もコンテンツタイプで管理されており、時期によってタイムリーに優先順位を変え、内容を更新できるようになっている。
なお、リニューアルで最も作業時間がかかったのは、約40年分の情報を整理し、コンテンツタイプに登録する作業だ。「作品情報のデータベースは、700件ほどを外部パートナーに依頼して1件ずつ手作業で進めました。大変でしたが、一度コンテンツタイプ化することで、今後、資産であるこれらのコンテンツを活用しやすくなるので、重要な作業でした」と石山さんは振り返ってくれた。
更新性、速報性が高まっただけでなく、ソーシャルシェアされる機会が増加
リニューアルサイトがリリースされたのは、2018年12月のこと。MT7の導入効果として、中山さんは「更新のしやすさ」を挙げる。
「これまでの『お知らせ』のみの更新に比べ、CMSで管理する領域は増えたものの、視覚的に操作でき、結果がすぐに反映されるので、更新はやりやすくなりました」(中山さん)。
管理画面のカスタマイズも自由に行え、わかりやすい投稿画面を作成できるだけでなく、誰がコンテンツを入力しても、構造化されたデータの作成が可能になるコンテンツタイプの利点が発揮された形だ。
使い勝手については、2019年のPFFへの応募が開始されるタイミングがこれからであり、応募者が迷わず、応募を完了できているかの検証は、これから行っていく状況だ。
一方で、サイト上の情報がシェアされやすくなったことの例として、中山さんは「SNSで言及、シェアされる機会が増えた」と話してくれた。
SNSのシェアボタンも追加され、作品情報が容易にソーシャルシェアされやすくなった。このため「ソーシャルメディアで特定のキーワードを調べてみると、ユーザーが見た作品、感想と一緒に、作品ページへのリンクが貼られているケースを、以前に比べてよく見るようになった」ということだ。
中山さんは「目当ての情報が見つけやすくなったことで、コミュニケーションの活性化にも寄与しているのではないか」と手応えを述べてくれた。
2019年の映画祭のイベントサイトもMT7で構築することを検討中
今後の展望として、中山さんは「9月の映画祭に向け、イベントサイト制作を進めているところだが、リニューアルした公式サイトをもとに、イベントトップページもCMS化したい」とMT7による情報更新性の向上に期待を述べる。
映画祭のサイトは「生もの」で、発表時に決まっていない情報が随時、追加、更新されていく。その意味で、トップページの役割は重要で、「サイトを見て確認することが当たり前になっているユーザーの行動、ニーズに応えられるようにしていきたい」とのことだ。
そして、今後、コルシスに期待する役割として、茨木さんは「リニューアルに際して、石山さんにはPFFの活動を知ってもらうところから始めていただき、今ではスタッフの次にPFFのことを理解してくださっています!(笑)」と感謝の気持ちを述べるとともに、次のように総括してくれた。
「今後も、顧客視点でのアドバイスや提案を積極的にいただいて、この公式サイトを一緒に成長させていきたいです」(茨木さん)。
写真左からコルシスの石山さん、PFFの茨木さん、中山さん
事例データ
- 使用した製品: Movable Type 7(ソフトウェア版)
- 制作を担当したのは: 株式会社COLSIS
- リニューアルサイトのオープン: 2018年12月
- リニューアルサイトの理由・課題: 情報を整理し、来訪者が迷わずに情報に接することができるようサイト構造を見直すとともに、更新を容易にし、情報の速報性を高める
- どのような手ごたえがありましたか?:コンテンツタイプにより、情報登録、ページ更新が容易に行えるようになった。SNSなどでシェアされる機会も増え、コミュニケーション活性化にも寄与している