ソニー損保は、代理店を通さずに直接ユーザーと保険会社が契約を結ぶ、いわゆる通販型の保険会社だ。毎年業績を伸ばし続け、通販型自動車保険部門では現在トップの売上を誇っている。同社では、ウェブサイトの構築にMovable Typeをベースにした高機能CMSのMTCMSを採用し、効率的なコンテンツ運用を行っているという。同社ウェブサイト企画部長の片岡伸浩さんにお話を伺った。
導入後次々とコンテンツを追加
ソニー損害保険では、以前からMovable Typeを導入したウェブサイト制作を行っている。最初の導入は、ユーザーの声を掲載する「お客様とソニー損保のコミュニケーションサイト」だった。
「スタート時は、Movable Typeに対して未知数だと感じる部分があったので、本業のECサイトの部分で使うのは怖いというところがありました。また、Movable Typeはブログのためのツールだという固定観念もありました。そこで、本業とは直結していないお客様とのコミュニケーションサイトに、まず導入しました。」(片岡伸浩さん)
しかし、使っているうちに当初の印象は変わってきたという。
「実際に使ってみると、これはブログじゃなくて、使い方次第でいろいろなことができる可能性があるCMSなんだということがわかりました。従来だったらものすごくお金や開発時間がかかるウェブサイト構築も、Movable Typeならスピーディでかつ安価にリリースできるメリットを感じましたね」(片岡伸浩さん)
その評価を受けて、次々とMovable Typeによるウェブサイトをリリースすることになった。
煩雑な管理などの問題をMTCMSで解決
しかし、ウェブサイトの数が増えるに従って、問題が発生してきた。
「その後、7つ位Movable Typeをインストールしたのですが、案件ごとに別々にインストールしたため、バージョンが複数存在し、管理画面もそれぞれ異なる状態になってしまいました」
管理が煩雑になった理由はもうひとつある。
「実際の画面で表示確認をしたいという要望があったため、テスト用と本番公開用に2つの環境を用意し、それぞれにMovable Typeをインストールして運用していました。担当者が一旦テスト用のMovable Typeに記事をアップしてわれわれウェブサイト企画部が確認し、OKならば本番公開用の
Movable Typeに手作業で記事を貼り直すという作業が必要だったのです」
手間が増えるばかりでなく、手作業が入る部分にはミスが起こりやすい。リンクの張り間違いによってリンク切れがおきることもあったという。 さらに、コンテンツの増加によって、サーバの強化も必要になってきた。
「もともと小さいレンタルサーバ1台でやっていたので、本業のビジネスに近いところでのコンテンツを運営するようになってくると、サーバに不具合が起きたときのリスクが高くなってしまいます。そこで、サーバの体制も強化しようということになりました」
相談を受けたスカイアークシステムでは、新たなサーバの構成とシステム構築の提案を行った。そこで提案されたのが、サーバの複数稼働による負荷分散と、Movable TypeベースのCMSであるMTCMSの導入だ。
サーバ体制は3台に増強。そのうち2台はウェブサーバに割当てて、ロードバランサーによって負荷の調整を行うようにした。残りの1台にはMovable Typeをインストールしている。ウェブコンテンツとシステムの設置場所を分けることで、アクセス増大に強く、安定した稼働が可能になった。
煩雑になっていた運用フローは、MTCMSの導入によって一元化された。バラバラに存在していたブログをすべてMTCMSのもとに集結させ、ひとつの管理画面から管理できるようにした。MTCMSでは、ウェブサイト全体のディレクトリ構造を階層ツリーで表示できるので、大量のブログも直感的に把握できる。
また、ユーザーごとに管理者権限を細かく設定できる機能も役だっているという。
「記事の投稿だけできる人と、公開する人との役割分担がはっきりしていて、ひとつの管理画面ですべて済ませられるのは大きなメリットですね。今は、テスト用の環境と公開用の環境を分ける必要がなくなりました。記事を投稿して、ウェブサイト企画部に連絡をすると、あとは同期ボタンを押すだけで公開用のサーバにアップされるようになり、運用が格段に楽になりましたね」
MTCMSの元で多数のコンテンツを展開
現在、MTCMSの元で、9件のコンテンツが稼働している。最新のコンテンツは「医療保険SUREを選んだお客様の声」だ。以前から自動車保険にも同様のコンテンツがあるが、さらに内容がブラッシュアップされた。
「評価を星印で表すなど表示を見やすくしました。特徴的なのが絞り込み機能です。特に、比較検討した会社を見ることができるのは、ほかのサイトではあまりない特徴だと思います。また、評価の高い順/低い順の両方で並び替えて表示することもできます」
悪い評価を先に見せるというのは、営業的にはマイナスに働くという考えもあり、通常ではなかなか実現しづらい機能ではある。
「たしかに社内では議論がありましたが、載せないと嘘になってしまいます。ソニー損保が一貫してこだわっているのは透明性というキーワード。都合のいい情報だけでなく、悪いこともすべて包み隠さず出していく方針は、全社で守っています」
そのほか、CSR活動関連のコンテンツも、MTCMによって運営されている。その中で最も話題を呼んだのが、環境への取組みを伝えるエコロジーサイトだ。
「今年で3年目になりますが、毎年希望者にゴーヤの種を配り、観察日記を投稿してもらっています。社員もお客様も参加するプロジェクトです。これがかなり盛り上がっていて、"ゴーヤ 育て方"などのキーワードで検索すると、ソニー損保のサイトが上位に表示されるようになりました(笑) Movable Typeを使って、お客様と社員が一緒に参加して盛り上げていくCSRサイトというのはめずらしいと思いますね」
ソニー損保では、走行距離の差額を環境団体に寄付するという活動を行っており、その報告もサイト上で行っている。
「よくあるCSRコンテンツは、一度見るとそれきり見てもらえないことがほとんど。頻繁に見ていただくには、やはり投稿系のコンテンツが効果的ですね」
これらの活動は、直接的な営業効果を狙って行っているわけではない。しかし、いままで届かなかった層の人々に、別の活動を通してソニー損保を知ってもらえるというメリットはある。
「ソニー損保が開業して、約10年が経ちます。会社としての社会的責任を果たすために、営業に直結しなくても役立つ情報の発信をしていかなければならないと思っています。その一環として、保険のプロが中立的なコラムを発信するコンテンツや、カーライフの楽しみを伝えるドライブグルメサイトなども立ち上げました。会社のメッセージを伝えていくには、そういったサテライサイトの存在も重要になってきます。従来にも増して、制作のスピード感が求められるようになったとき、Movable Typeはさらに活躍すると思っています」
今後は、イントラブログもMTCMSに移行し、社内のコミュニケーションの活性化に役だてていきたいという。システム管理や更新作業にリソースを取られることなく、コミュニケーションそのものやコンテンツ内容の充実に注力するには、MTCMSのような使い勝手のよいシステムの導入が大いに役立つと言えるだろう。
写真右からソニー損害保険の片岡さん、左側がスカイアークシステムの桐田さん
事例データ
- MTCMS(Movable Type Advanced)
- サイトを公開した時期:2010年7月
- はじめた理由:複数のサイトで別々のバージョン・管理画面のMTを利用していたが、その統合を目指して
- 制作を担当したのは:株式会社スカイアーク
- どのような手ごたえがあったか:ウェブサイトの安定稼働の実現