鶴見大学は神奈川県横浜市鶴見区に本部を置く私立大学。6年制の「歯学部」、4年制の「文学部」、3年制の「短期大学部歯科衛生科」、2年制の「短期大学部保育科」などからなる、ユニークな学部構成になっている。
2008年11月より、広報ブログをはじめとする、複数の学内ブログを全学的に導入し、運営している。教育機関がブログを運営する目的と、管理に関するご苦労などについて、同大の理事でもある文学部長の長塚隆教授、サイト全体の管理を行う総務課の石崎良さん、広報ブログを管理する広報課の田村直規さん、サイトの構築を行ったブルー・バンブー株式会社の村山裕美子さんにお話を伺った。
ブログ導入の理由
大学のサイト自体は2000年にオープンしており、内容は各学部の案内、カリキュラム、入試情報、キャンパスライフの紹介などで、コンテンツの管理は基本的に総務課が行っている。
また、こういった大学全体に関わるコンテンツとは別に、各学科や研究室単位でも複数のサイトを展開している。こちらの運営は総務課ではなく、それぞれの学科の担当者が行っているが、実際は制作時間の捻出ができない、サイトの制作に慣れていない、といった理由から更新が滞ってしまう傾向にあったという。
そこで2008年6月、長塚教授、石崎さんが参加する学内のマルチメディア委員会によって、ブログシステムを使った制作者に負担のかからない情報発信手段の構築が検討された。
「簡単に情報発信がしやすいツールを選ぶことで、教員や事務職員などからも気楽に情報発信していただけるようなベースを作りたかったというのがきっかけです」(長塚教授)
鶴見大学BLOGトップページ。公開されているすべてのブログが紹介されている。
ブログ構築の経緯
導入時にはブルー・バンブー株式会社の提案を元に、いくつかのブログシステムを比較検討し、最終的にLekumo ビジネスブログ 無制限ユーザーの採用が決定された。
「TypePadの利用を提案させていただいた理由はいくつかあります。例えば、ユーザー数が無制限であること、TypePad提供テンプレートの豊富さ、容量と転送料、コストパフォーマンスの高さ、パスワードによる閲覧制限機能、携帯から編集できる機能、などです」(村山さん)
特に携帯からの編集は重要な要件だったそうだ。
「もともと個人的にTypePadを利用していたので操作感はわかっていました。また、ほかのブログツールだと携帯から閲覧、投稿はできても編集はできません。部活動の実況中継などで、一個の記事を編集して更新する想定をしていたので、この機能は魅力的でした」(石崎さん)
また、サーバインストールタイプのMovable TypeではなくASP型のTypePadを選択した理由は、ブログを設置することによって現在のサーバの容量が足りなくなったり、アクセスに負荷がかかることを避けるためだという。
TypePad管理ページのブログ一覧画面。現在運用されているすべてのブログが表示されている。
TypePad管理ページの記事一覧画面。担当者は個別の記事を自由に編集することができる。
学内ブログ普及の試み
ブルーバンブー株式会社によって作成されたTypePad運用マニュアル。
TypePadの導入が完了すると、マルチメディア委員会では学内にアナウンスをするとともに、導入を担当したブルー・バンブー株式会社が自作のマニュアルを用意し、スクリーンで実際に操作しながら、使い方をわかりやすく説明するトレーニングセミナーを行った。
「ITにあまり詳しくない方も多いので、単にアナウンスするだけではなく、実際に説明の機会をもうけないと普及しないと考えました。昨年の11月に2回行いましたが、今後もなるべく多くやっていきたいと考えています」(石崎さん)
また、ブログ開設にあたり、鶴見大学独自のデザインテンプレートを、在学生向けと受験生向けの2種類用意したそうだ。受験生向けのテンプレートは学内サイトへのバナーを多く配置するなど、PR効果を狙ったデザインになっている。
学内の組織がブログを開設したい場合は、所定の申請書に記入し、提出することになっている。申請書には、デザインを選択する欄があり、利用者はそこで自由に選ぶことができる。TypePadが提供する350種以上のデザインから選ぶこともできるが、その場合はサイドバーに大学ホームページへのリンクバナーを表示することが条件となっている。
ブログの運用
鶴見大学広報BLOGのトップページ。行事や講演会など学内の各種情報をリアルタイムに発信している。
現在運用が行われているブログは20程度となっている。
最初に開設されたのは、学内で行われる学会の講演会や、生涯学習の紹介などの学内情報を公開する広報課のブログだ。今までは季刊の学内情報誌「Campus Now」や大学HPで学内情報を発信してきたが、ブログを開設したことで、最新の情報をリアルタイムに出すことができるようになったという。
広報課の田村さんはブログの導入について次のように語ってくれた。
「いままでブログというものは一度も触ったことがなかったのですが、丁寧な講習を行ってくれたので使い方はすぐにわかりました。親切なマニュアルをいただけたのもよかったですね。今後はブログならではの使い方を模索していきたいと思っています」(田村さん)
また、一部の学部では生徒全員にノートパソコンを貸与していることもあり、外部に公開するブログだけではなく、授業などでブログを活用するという利用方法も検討しているという。
「例えばクラスの出席者にIDとパスを伝え、課題の提示やレポートの提出などをブログで行うなどといった使い方も考えられます。授業での活用法については今後の課題として教員にもアイディアをだしてもらい、いろいろ検討していこうと思っています」(長塚教授)
現在大学のサイトには学内ブログの一覧ページがあり、そこから各ブログに飛ぶことができる。また、一覧に表示されているもの以外に、学校関係者向けに利用が限定されたブログもすでにいくつか運営されているという。
今後の展開
今後も学内ブログはどんどん増やしていく予定だという。そのためにはブログ全体を管理する総務課の支援が必須だ。
「ブログをやりたいというオファーがあれば、われわれがノートパソコンを持って学内を駆け回り、導入できるまでの支援を行います。サイドバーに別のサイトへのリンクを張るなど、多少のカスタマイズにも対応するつもりです」(石崎さん)
TypePadは携帯電話での利用にも対応しているので、今後は携帯向けコンテンツの充実も図っていきたいという。
「携帯からのアクセス数がかなりあります。他大学に負けない携帯サイトを作っていくためにも、簡単に携帯サイトを作れるブログを利用できるのはアドバンテージかなと思っています」(石崎さん)
現在大学のブログは教員や職員にしか使用が許可されていないが、学内のクラブやサークルの中には外部の無料サービスなどでブログを運営しているところもあるそうだ。将来的には学生にもブログを書いてもらいたいと考えているが、問題もあるという。
「今は教員だけなのである意味安心なのですが、学生に書いてもらうとなると情報リテラシーの徹底が必要となります」(長塚教授)
サイトを更新する際の規定・ポリシーは策定されているが、多くの学生に更新を許可することになると、管理を徹底する負担も上がることだろう。不用意な書き込みから、いわゆる炎上事件が起こることも多い昨今、ブログを書く側のリテラシー向上はますます重要な課題になっていくだろう。
鶴見大学ではTypePadを使って学校側がリアルタイムな情報を発信することにより、在学生・学校関係者の利便向上、受験生への興味喚起などを実現してきた。今後はこのような用途だけではなく、学生による情報発信や、教育ツールとしての活用など、新たな試みも積極的におこなっていくという。今後の展開に期待したい。
左から石崎さん、長塚教授、田村さん
事例データ
- Lekumo ビジネスブログ 無制限ユーザー
- ブログを公開したのは:2008年11月
- はじめた理由:教員や職員が簡単にサイトを作成できるようになるため
- 制作を担当したのは:ブルー・バンブー株式会社(ProNet)
- 何か手ごたえはありましたか?:いくつかの取材依頼を受け、ページビューも上がりました